英国政府、合意なきEU離脱の備えに総力

(英国、EU)

ロンドン発

2019年07月30日

7月24日の発足から間もないボリス・ジョンソン新政権が、10月31日に予定されている英国のEU離脱(ブレグジット)に向けた準備を加速させている。

ジョンソン首相は、無任所大臣であるランカスター公領相に、先の党首選を争ったマイケル・ゴーブ前環境相を起用(2019年7月25日記事参照)。首相は同相に対し、合意なき離脱(ノー・ディール)に備えて省庁横断的に準備を進める役割を与え、その対策を全速力で進めるよう指示した。同相はこれを受け、7月28日付「ザ・サンデー・タイムズ」紙への寄稿の中で、ノー・ディールが「非常に強い現実味を帯びている」と指摘。EUが離脱協定案の再交渉を拒否する姿勢を変更しないという前提に立って準備を進める必要があるとの考えを示した上で、(1)ノー・ディール対策予算の確保、(2)各省庁におけるノー・ディール対策への優先的取り組みと組織内再編、(3)内閣府による省庁間の調整と意思決定加速のための新体制構築、に着手していることを明らかにした。

これに呼応して、内閣府は7月29日、複数の閣僚が特定の課題について協議する内閣委員会の一覧を公表した。メイ首相当時の2019年4月時点で24あった委員会(7つの作業部会を含む)を、新政権はわずか6つに削減。うち3つはブレグジットに関わる委員会で、前政権下でも存在したブレグジットに関連する経済・通商問題を扱う委員会に加えて、離脱戦略を策定する少数の委員会(首相、財務相、外相、ランカスター公領相、EU離脱相、法務長官が参加)と、ランカスター公領相が議長、EU離脱相が副議長を務め、離脱に向けた諸準備を統括する委員会の2つを新設した。10月31日の離脱予定日まで、前者の戦略委員会は週2回、後者の準備作業委員会は平日に毎日開催するという。

複数の報道によると、これに先立つ7月26日夜には、ブレグジットのカギを握る(2019年7月26日記事参照)ドミニク・カミングス上級補佐官が、他の補佐官や政府幹部らを官邸に集め、ジョンソン首相は「必要なあらゆる手段を講じて」10月31日までにブレグジットを実現する決意だと説明。残り100日弱の間、各部局で最優先に取り組むよう、げきを飛ばすとともに、10月7日の週にはノー・ディール対策のための緊急予算案を公表する考えを示した。サジード・ジャビッド財務相も7月28日付「サンデー・テレグラフ」紙への寄稿で、ノー・ディール対策のための追加予算編成に着手したことを明らかにしている。

一連の動きを受けて、英国通貨ポンドは7月29日、米国ドルに対して、英国がEUに離脱を通告した2017年3月以来、28カ月ぶりの水準まで下落した。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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