内閣不信任案は否決、ビロード革命以降最大の抗議デモを受けた採決

(チェコ)

プラハ発

2019年07月01日

チェコ下院で6月27日早朝、アンドレイ・バビシュ内閣の不信任投票が実施された。不信任案の可決には下院の全議員202人のうち、絶対過半数以上の賛成が必要となるが、賛成票は85にとどまり(反対85、棄権12、欠席18)、同案は否決された。

今回の不信任案採決の背景には、バビシュ首相(ANO 2011)の汚職疑惑に対する民衆の強い不満がある。各種報道によると、欧州委員会は5月に取りまとめた報告書案の中で、同首相が首相に就任する前に所有・経営していた食品・農業化学企業グループのアグロフェルト(Agrofert)によるEUの補助金受給が利益相反に当たると指摘した。その上で報告書は、同社が受け取った補助金1,749万ユーロ相当は返金されるべきだとしている(注)。バビシュ首相は報告書を受けて、自分はチェコとEUのどちらの法令にも反する行為はしていないと主張している。

またバビシュ首相は、アグロフェルトの傘下にあるファルマ・チャピー・フニーズド(Farma Capi hnizdo)が、中小企業向けのEU補助金を不正に受給した疑いが持たれたことで、警察の取り調べを受けていた。警察は4月に本件を送検したが、その直後に法相が首相に近い人物とされるマリエ・ベネショバー氏に交代となった。

バビシュ首相への不信が高まる中、市民団体の呼び掛けで、4月からプラハや全国各地で不定期に大規模な市民集会が実施された。集会では、バビシュ首相とベネショバー新法相の退陣が要求されたが、本人たちはいずれも辞任の意思はない旨を公言している。

そのため、集会は6月に入っても続き、同月23日にプラハで開催されたデモには、主催者発表で約25万人(移動体通信事業者による発表で約28万人)が集まり、1989年の旧共産党政権崩壊(ビロード革命)時以降で最大規模の抗議デモとなった。

今回の内閣不信任案決議は、こうした国民の意思をくみ取った野党5党が提出した。野党グループは不信任案否決後の記者会見で、今後も機会をみて、不信任投票を提案していく方針を明らかにした。

ただし、バビシュ首相が率いる与党ANO 2011は、支持率トップを保持しており、5月に実施された欧州議会選挙でも議席を増やしている(2019年5月28日記事参照)。5月初めから半ばに実施された世論調査では、ANOの支持率は28%で、2位の野党・市民民主党(17%)との差は縮小しつつあるが、依然として最大の支持率を誇っている。

(注)バビシュ首相は2017年、チェコ利益相反行為防止法に従い、同社の保有株を信託資金に移している。

(中川圭子)

(チェコ)

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