デジタル貿易のルール形成、取引の健全性と市場の安全性・信頼性を重視

(中国、世界)

北京発

2019年06月04日

中国商務部が2018年6月に発表した「中国のデジタル貿易とソフトウエア輸出報告2017」によると、2017年の中国のデジタル経済の規模は約27兆2,000億元(約435兆2,000億円、1元=約16円)に上り、同国のGDPの32.9%を占めた(注)。中国のシンクタンクCCG(Center for China and Globalization)の3月の発表によれば、2017年の中国のデジタル貿易の輸出額は約2,360億ドルとなっている。同発表では、拡大するECとデジタルアプリケーションソフトの輸出が牽引することにより、2030年のデジタル輸出額は7,260億ドルに達すると予測している。

商務部の上記報告では、デジタル貿易の国際ルール形成における主導権争いが激化しているとの認識が示されている。中国は、デジタル貿易に関するルール形成に向け、1月に米国を含む75カ国と共同でWTOの電子商取引に関する共同声明を発表し、交渉への参加を表明した。4月には中国の同分野における交渉スタンスを示した文書をWTOに提出している。

同文書によると、中国は特に、越境EC(および関連する決済、物流サービス)や、サービス貿易の促進に焦点を当て、健全な取引環境と安全で信頼性が高い市場環境に基づいた国際ルール構築を目指すべきとの立場を表明している。個別の論点に関しては、貿易関連手続きの電子化や電子決済、電子署名・認証など取引に関する制度整備や、消費者保護などに対して積極的な姿勢を示した。実際、1月1日から施行された中国の「電子商務法(電商法)」では、ECプラットフォームの運営事業者などに対して、消費者の保護などを義務付けている(2018年9月25日記事参照)。

一方で、中国は同交渉においては、加盟国の規制に関する権限に配慮し、かつ技術進歩やビジネスの発展、加盟国の公共政策目的(インターネット主権、データの安全、プライバシー保護など)の間でバランスを取るようにも求めている。例えば、サイバーセキュリティーの分野では、各国のインターネット主権を尊重するよう主張している(表参照)。

表 中国のWTO電子商取引交渉に関する主張やスタンス

前述したCCGの報告では、中国が電商法を成立させ、EC事業者と消費者との権利や利益のバランスを図ったことは、デジタル貿易の核となる越境ECの体制を万全にする上で重要な一歩であったと評価しつつ、データの越境流通を促進させることで、自国にとってより優位な環境を築けると提言している(「鳳凰網」3月21日)。

(注)商務部の報告におけるデジタル貿易の定義は不明だが、報告の記述によると、デジタル化されたプラットフォームを通じて行われる財の貿易(越境ECなど)、およびソフトウエア輸出などのサービス貿易が含まれると推測される。

(小宮昇平)

(中国、世界)

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