カナダのプラスチック産業界、政府の性急な環境への影響評価を懸念

(カナダ)

米州課

2019年06月17日

カナダのトルドー首相が6月10日、2021年までに使い捨てプラスチック製品を禁止すると発表したことを受け(2019年6月11日記事参照)、専門家や石油企業からは原油の需要や石油産業への収益に重大な影響を与えるとの見方が出ている。

カナダ化学工業会(CIAC)とカナダ・プラスチック産業協会(CPIA)は声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、プラスチックごみのより統一的な回収や再生プラスチックの市場形成につながる拡大生産者責任(EPR)イニシアチブを歓迎する一方で、連邦政府に対しては結論ありきではなく、プラスチック製品のライフサイクルへの影響について考慮するよう促した(カナダ化学工業会プレスリリース6月10日)。

また、CIACの会長兼CEO(最高経営責任者)のボブ・マスターソン氏はCBCニュースのインタビューで、使い捨てプラスチックの環境への影響は、メディアで時々見られる汚染の映像よりも複雑で、プラスチックの代替物の中にはプラスチックよりも環境に与える影響が大きいものもあると指摘した。また、同氏によると、プラスチックの需要は減るどころか急増しており、プラスチック製品の主要生産州であるアルバータ州の化学産業の規模は160億カナダ・ドル(約1兆2,960億円、Cドル、1Cドル=約81円)に達しており、そのほとんどがプラスチック関連で、同分野の雇用は8,000人に上り、140億Cドルの新規投資も進行中という。

一方、既に使い捨てプラスチック削減に取り組んでいるアルバータ州のカルガリー市の職員は、今回の連邦政府の決定を歓迎している。同市の廃棄物およびリサイクルサービスの戦略的計画策定責任者のケート・トレジャン氏は、使い捨てプラスチック問題は、自治体が単独で扱うには大き過ぎる問題で、全国的に取り組むべきものと述べた(CBCニュース6月11日)。また、ノバスコシア州の環境団体、エコロジー・アクション・センターは、カナダ政府による今回の発表の詳細は不明で、実施までに2年以上かかるものの、カナダ政府がプラスチック廃棄物問題に対処するために措置を講じたことを評価した。

トルドー首相率いる自由党は、環境保護を優先的な課題とし、マイクロビーズを含有するトイレタリー製品の輸入・製造禁止や炭素税の導入などを実施している。カナダでは2019年10月に連邦議会総選挙を控えており、今回の同首相による2021年までに使い捨てプラスチックを禁止とする表明は、連邦議会選挙を意識したものとみられている。

なお、長野県軽井沢町で開かれたG20エネルギー・環境閣僚会合は6月16日、海洋プラスチックごみ削減に向けた国際的な枠組みの構築などを盛り込んだ共同声明を採択した。プラスチックごみ対策に関する国際的な枠組みは今回が初めてとなり、今後、各国はごみ削減やリサイクル促進に対する取り組みを定期的に報告し合うとした。

(中溝丘、野口真緒)

(カナダ)

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