下院総選挙で中道左派与党が勝利、極右は予想ほど伸びず

(スペイン)

マドリード発

2019年05月07日

4月28日に実施されたスペイン議会下院総選挙では、与党・社会労働党(PSOE)が議席を5割近く伸ばし第1党となった一方、最大野党・民衆党(PP)は議席が半減し大敗を喫した(表参照)。

2大政党制から多党制への移行が鮮明に

2大政党と、新興2党である市民党(C’s)およびポデモス党間の得票差はさらに縮小、また、2018年末のアンダルシア州選挙で躍進した極右新興政党ボクス(Vox)が第5党として初めて国政に進出したことにより、5つの多党制時代の到来が鮮明となった。

表 下院総選挙の結果(投票率75.8%)

報道では、今回総選挙における与党PSOEの勝因は極右政党の躍進に対する脅威だったとの分析が一般的だ。2018年末のアンダルシア州選挙(2018年12月6日記事参照)でボクスが急躍進し、PP、市民党との右派3党の協力で州政権が交代した。これを機に、国政でも極右を含む右派ブロックによる政権奪回が現実味を帯びてきたことから、投票率が過去20年間で最高の75.8%(前回より6.0ポイント増)に達し、多くの有権者が中道政党に票を投じたとされる。実際、中道ポジションを取ることに成功したPSOEと市民党が議席を伸ばした一方、ボクスへの票流出を懸念し右傾化したPPと、急進左派のポデモスは得票率が大幅に低下した。PPは選挙後、「中道への回帰」を表明した。

ボクスは、PPの汚職への批判やカタルーニャ独立問題への強硬な対応、闘牛・狩猟保護を掲げて支持を急拡大してきたが、欧州懐疑主義や反イスラム主義、反マイノリティー保護といった過激な主張に投票をためらう有権者も多かったとみられ、事前の世論調査予想を大きく下回る結果となり、下院でのキャスティングボートを握るまでには至らなかった。

また、地域政党に票が流れたことも今回の特徴とされ、カタルーニャ州では独立問題を背景に収監中の幹部を主要候補に立てたカタルーニャ共和左派(ERC)が議席をほぼ倍増させたほか、他の地方でも中道の地域政党が議席を獲得している。

5月下旬の地方選挙などを控え、連立の動きはなし

今後は5月21日に新議会が招集、議長などの執行部が選任され、その後5月末から6月上旬の間にペドロ・サンチェス現首相の続投を決める投票が行われる予定だ。

PSOEは今回総選挙での躍進により上院で議席過半数に達したものの、下院では過半数に満たないため、政権樹立には他党との連立または閣外協力が必要となる。5月26日に統一地方選挙および欧州議会選挙の実施が予定されているため、政策の妥協とも受け取られ得る他党との連立への明言を避け、今のところは単独少数政権を続ける意向を示している。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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