移民助言委員会、ビザ発給を優先する人材不足職業リストの対象拡大を提言

(英国)

ロンドン発

2019年05月31日

英国の移民助言委員会(MAC)は5月29日、「人材不足職業リスト(SOL)」の見直し結果を公表し、欧州経済領域(EEA、注1)域外の市民のビザ取得が優先される対象職業の拡大を政府に提言した。

リストの見直しは2013年から行われていなかった。また、英国では国内の失業率の低下に伴い求人が増加しており、EEAからの労働者だけでは人材不足が補えないなどの懸念もあることから、政府は2018年6月にレビューを実施するようMACに依頼していた。

今回の見直しは、非EEA市民が新たに英国企業で働く場合に必要になるTier2(一般)のビザを対象にしており、企業内転勤(ICT)のビザとは区別される。MACはSOL対象職業の医療やIT、その他の科学・技術・工学・数学(STEM)関連での拡大を提言した。これにより、SOL対象職業が労働市場に占める割合が現在の1%から9%まで上昇する。SOL対象職業は、まずビザの申請時に労働市場テスト(注2)の免除や申請費用の割引が受けられ、英国に5年間居住した後に申請できる永住権についても、年収基準の適用から除外される。さらに、Tier2(一般)のビザ発給には、年間2万700人までの発給上限が定められているが、上限に達した際、SOL対象職業の申請者は優先的にビザ発行対象となる。

一方、政府はEU離脱後に全ての外国人労働者を対象とした新しい移民システムを導入するとしており(2018年9月20日記事参照)、Tier2(一般)の年間発行上限を撤廃し、今後はEEA市民にもビザを要求する予定だ。今回の見直しは非EEA市民を対象とする現行の移民制度の改善を提言するにとどまり、新しい移民システムは考慮していない。MACはEU離脱後、EEA市民を含む新たな移民制度が決定した段階で、再度SOLの見直しを行うことを推奨している。

今回の提言に対し、英国商工会議所(BCC)のジェーン・グラタン市民政策部長は、SOLの対象拡大を歓迎し、役職ではなく職業がリスト化されていることで、同制度の運用がより簡素化され柔軟になると評価した。一方、「(EU離脱により)労働者の自由移動の終了は、雇用者に重大なコスト増加をもたらし、課題を残す」とし、企業の4分の3は必要な人材を確保できていないとする調査結果に触れ、将来の人材不足への対応に懸念を示した。

(注1)EU加盟国とアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを指す。英国では、スイス国籍者に対しても、労働と居住に関してEEA市民と同等の権利を認めている。

(注2)求人広告を行い、国内での採用が不可能であることを証明するテスト。

(鵜澤聡)

(英国)

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