北極圏フォーラム、北欧諸国首脳との議論かみ合わず

(ロシア、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)

欧州ロシアCIS課

2019年04月11日

プーチン大統領は4月9日、サンクトペテルブルクで「第5回国際北極圏フォーラム:北極圏-対話の領域」に出席、ロシアの北極圏開発の進捗について発言した。北欧諸国の首脳も加わったパネルディスカッションでは、北極圏開発以外のテーマに話題が及ぶことが多く、北極圏での経済協力などに関する議論は深まらなかった。

パネルディスカッションには、プーチン大統領のほか、フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領、アイスランドのグズニ・ヨハンネソン大統領、ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相、スウェーデンのステファン・ロベーン首相が出席。

プーチン大統領はロシアの北極圏開発について、a.2021年からロシアが議長国となる北極評議会(注)で、特に産業、輸送、エネルギー分野での環境に配慮した技術導入を優先度の高い検討テーマとすること、b.現在、ロシアの全投資額の10%以上が北極圏での事業に向かっており、経済における北極圏の意味合いが高まっていること、c.「2035年までの北極圏発展戦略」の策定作業を現在進めていること(2019年4月2日記事参照)、d.北極圏の資源採掘などに向けた民間投資の呼び水とする鉄道インフラ整備(北極圏を東西につなぐ「北方緯度鉄道」事業など)を進めること、d.2025年までに北極海航路の輸送量を8,000万トンまで引き上げる計画に関し、2018年には既に2,000万トンを超え、達成可能な数字と考えていること、e.2035年までに北極海域でのロシアの大型砕氷船は13隻以上となり、うち9隻が原子力砕氷船となる予定であること、f.北極圏への投資に対する優遇・支援を定める連邦法案を秋会期に議会に提出すること、などを述べた。

北欧諸国首脳からは、深刻化する北極圏の温暖化を受け、北極圏開発においても二酸化炭素排出量や排出ごみの削減、「グリーン・フィロソフィー(緑の哲学)」に基づく生活環境の整備などの必要性が訴えられた。しかし、モデレーターの質問の大部分は安全保障問題や欧米の対ロシア制裁、原油価格の動向など北極圏以外のテーマに割り振られ、各国首脳が北極圏開発に関し議論を深める場面はほとんど見られなかった。

なお、同フォーラムに関連して、連邦政府内で北極圏開発政策を取りまとめるユーリ・トルトネフ副首相兼ロシア極東連邦管区大統領全権代表は4月9日、北極圏への投資に対する優遇政策法案は7月1日までに議会に提出されるとの見通しを明らかにしている。また、アレクサンドル・コズロフ・ロシア極東・北極圏発展相は「(同じく政府が発展に力を入れる)ロシア極東と比べても、自然環境が厳しくインフラもない北極圏への民間投資には、何倍もの支援・優遇が必要になる」と、政府支援の比重がより重くなる可能性を指摘している。

(注)現在、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国が加盟。日本や中国を含む13カ国の政府、その他組織や団体がオブザーバーとして参加している。現在の議長国はフィンランドで、2019年5月からはアイスランド、2021年からはロシアが議長国となる(任期は2年)。

(高橋淳)

(ロシア、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)

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