新たな合意でも英国議会の通過は予断許さず

(英国、EU)

ロンドン発

2019年03月12日

英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐり3月11日夜に英EU間で合意(2019年3月12日記事参照)した文書について、最大の焦点であるアイルランドと北アイルランド間の安全策(バックストップ)の規定は、合意済みの離脱協定の各種取り決め(2018年11月15日記事参照)や、1月14日にテレーザ・メイ首相と欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長の間で取り交わされた書簡(2019年1月15日記事参照)で示された合意から大きく変わるものではない。しかし、単独の交渉トラック設置や一方的な義務履行の停止などの新たな取り決めを示したこと、法的拘束力を明示したことは、大きな前進となった。

英国議会での審議では、ジェフリー・コックス法務長官が示す合意文書に対する法的解釈が注目される。同長官は2018年、離脱協定について、英国が永続的にバックストップに留め置かれる懸念があることを指摘していた。反対議員の相当数を賛成に転じさせるには、付属文書がその懸念を払拭(ふっしょく)し得ると、同長官が判断することが欠かせない。

報道によると、与党・保守党内のEU離脱強硬派の一部は、メイ首相支持に転じる意向を早々に表明している。他方、強硬派最大勢力の欧州調査グループ(ERG)のスティーブ・ベイカー副会長は、まず文書を精査し、同グループの法律顧問団の見解を聞く意向をツイート。閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)の報道官も「文書を精査し、適切な助言を得た上で、1月29日に可決された(バックストップを置き換えるとした)修正動議とその後のメイ首相の約束に照らして判断を下す」とのコメントを発表している。

対する野党では、労働党のジェレミー・コービン党首、影のEU離脱相であるキア・スターマー議員らが、メイ首相は離脱協定のバックストップ条項そのものに何の変更も加えられなかったと批判し、採決での反対を明言。スコットランド国民党(SNP)のイアン・ブラックフォード国会議員団代表も、メイ首相の合意はこれまでと何ら変わらず、多数が残留を選択したスコットランドを無視するものと非難している。保守党の強硬派やDUPが賛成に転じても、過半数に到達するかはなお予断を許さない。

否決されれば、英国議会は翌13日に、合意なし(ノー・ディール)で3月29日(英国時間)に離脱するかどうか採決(2019年2月27日記事参照)。これも否決されれば、14日に、離脱延期の是非について採決する。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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