鉄鋼大手の2018年通期決算好調、高配当と設備投資の両にらみへ

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2019年03月08日

ロシアの大手鉄鋼メーカーが発表した2018年通期財務諸表(国際会計基準)はいずれも好決算となった(表参照)。売上最大手のエブラズは、鉄鋼と主力製品バナジウムの価格上昇に加え、コスト削減も功を奏し純利益を3.4倍に拡大。2012年から16年までは資産減損や為替差損などが財務を圧迫していたが、EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)で2008年以来の好業績を示した。

表 ロシア鉄鋼大手の財務業績

これらの鉄鋼メーカーは財務上では好調だが、世界の鉄鋼需要の減速や国内経済の先行き不透明感から、増産による供給過多を懸念し、企業利益を新規設備投資よりも配当支払いに充てる傾向がある(フィナンソバヤ・ガゼタ2018年12月2日)。EBITDAマージン(注)で36.6%と業界最高水準を保つセベルスタリも、利益の大部分を配当として株主に還元する高配当政策を続ける。同社の筆頭株主はアレクセイ・モルダショフ会長で、外国登記の法人などを通じて約77%を保有しているとされる。その一方、2018年11月に発表されたセベルスタリの経営戦略方針では、この配当政策を維持しながら、2019年の投資額を過去8年平均の約8億ドルから約14億ドルに拡大し、大半を事業拡大に投資する計画を明らかにしている(セベルスタリ・プレスリリース2018年11月7日)。

粗鋼生産最大手のノボリペツク製鉄も2023年までの平均設備投資額を過去5年平均の1.5倍に引き上げると発表(ノボリペツク製鉄・プレスリリース3月4日)。同社の最新戦略(”Strategy-2022”)のための5年間の設備投資総額は21億ドルとなり、このうち約10億ドルは増産などに、残りの約11億ドルは高付加価値製品の拡充に使うとしている(ロイター3月5日)。

鉄鋼セクターの潤沢な収益には、主として資源価格の上振れや為替差益など、本来の企業活動に起因しない背景が貢献しており、この「余剰収入」に政府も着目していた(2018年8月20日記事参照)。ベロウソフ大統領補佐官は2018年8月、鉄鋼セクターなどから2017年度の余剰収入を徴収する案をプーチン大統領に提言し、11月には大統領主催の政府閣議でこれらの民間投資を含む新国家事業を協議(2018年11月30日記事参照)。新事業の趣旨について、同大統領補佐官は「民間セクターが(余剰収入を)配当支払いに回すのではなく、事業に投資するような環境を作るため」と説明していた(大統領府サイト2018年11月28日)。

(注)売上高に対するEBITDAの比率。

(市谷恵子)

(ロシア)

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