首相が議会解散、4月28日に総選挙

(スペイン)

マドリード発

2019年02月19日

ペドロ・サンチェス首相は2月15日、上下院を解散し、総選挙を4月28日に前倒し実施すると発表した。

サンチェス社会労働党(PSOE)政権は、2018年6月のラホイ民衆党(PP)前政権に対する不信任決議を経て発足したが、少数単独のためかじ取りが厳しく、2019年予算案(2019年2月5日記事参照)が2月13日に下院で否決されたことで行き詰まった。首相は「予算なしでは政権を運営できない。議会で支持を得られないのであれば、民意を問うまでだ」と述べた。

政権では閣僚の半数以上を女性が占め、格差是正や脱炭素社会への移行を打ち出したが、8カ月という、民主化後最も短い政権に終わった。閣外協力を除く与党PSOEの下院での勢力は議席の4分の1を割り込み、最大野党PPと市民党(C’s)の右派に対抗しつつ、急進左派のポデモス党とカタルーニャやバスクの民族主義政党との間で綱渡りを強いられた。上院はPPが過半数を制する「ねじれ国会」のため、重要法案が通せない状況だった。

潮目となったのは、2018年12月のアンダルシア州議会選挙(2018年12月6日記事参照)での極右政党ボクスの躍進だ。世論調査でも右派政党の支持率が優勢だが、右派はカタルーニャ問題の対話を拒絶しているため、民族主義政党にとっては左派サンチェス政権の存続の方が好ましい。首相はこれを逆手に取り、予算案審議でカタルーニャ独立派の支持を得ようとしたが、2017年の独立を問う住民投票の強行や、独立宣言で反逆罪などに問われている元州幹部らの裁判が始まり、関係が緊張した。憲法を譲れない一線とする政府と、超法規的な恩赦や自決権を要求する独立派との妥協点を見いだせず、交渉は決裂し予算案も頓挫した。

4月の総選挙では、2大政党(PP、PSOE)と2大新興政党(ポデモス、C’s)に、新たにボクスを加えた本格的な多党制への転換が確実視される。ボクスは反移民やEU懐疑主義の面では欧州の極右政党と同様だが、独立問題に最も強硬に反対する姿勢を取ることで、独立派に反発する内向きのスペイン・ナショナリズムの機運を取り込んで支持を急拡大したというスペイン独自の背景も持つ。カタルーニャ問題は今や、政党に極端なかたちで政治の方向性の明示を強要する「踏み絵」となっており、対話路線のサンチェス政権も対応に苦慮した。世論調査では、PP、C’s、ボクスの右派ブロックが過半数を握るとの予想が優勢となっているものの、「極右台頭」への脅威から左派票が伸びる可能性も排除できない。

新税導入されず、財政赤字拡大

政府は予算案に先立ち、年金や公務員給与、最低賃金の引き上げといった歳出拡大を行政立法により実施した。しかし、今回の否決によって、予算案の目玉だった法人増税や「グーグル」税などの歳入策が流れ、財政赤字が拡大するとみられる。

一方、解散総選挙により、同政権が推進しようとして経済界から反発を受けていた労働市場改革法の一部廃止や環境規制の加速の可能性は後退した。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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