食品小売り大手、利益の伸び鈍化

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2018年11月09日

ロシアの食品小売りセクターの今後の伸びについて、明るさが見えないとの見方が広がっている。アナリストや業界関係者は、実質可処分所得の減少や消費者の節約志向の高まりを受けた、小売企業間の競争激化による収益率の低下や業界再編などの可能性を示唆している。

食品小売り大手マグニトが10月22日に発表した2018年第3四半期財務報告(国際会計基準、表参照)によると、純小売売上高(注1)は前年同期比8.0%増の3,052億5,000万ルーブル(約5,189億2,500万円、1ルーブル=約1.7円)、利払い・税引き・減価償却前の利益(EBITDA)は5.3%増の217億4,200万ルーブル、純利益は10.0%増の76億1,800万ルーブルと、2016年以来の四半期決算で黒字転換となった。その一方で、2018年1~9月期の純利益は前年同期比8.38%減の253億8,300万ルーブル、純利益率は0.5ポイント減の2.8%となり、2018年上半期の純利益の落ち込みの影響を取り戻すには至っていない。同社はドラッグストアグループの買収や大規模店舗形態の見直しを通じて、利益率重視の経営形態を目指す。

表 食品小売り大手の財務業績(国際会計基準)

10月24日には最大手X5リテール・グループが同決算を発表。純小売売上高(注2)は前年同期比17.6%増の3,729億3,400万ルーブル、EBITDAは23.7%増の276億8,900万ルーブル、純利益は11.1%の80億8,700万ルーブルと四半期決算で2018年初めての増益となったが、2018年1~9月期の純利益では前年同期比で13.8%減の224億ルーブル、純利益率は0.8ポイント減の2.0%と、やはり伸びが鈍化している。

利益の伸びの鈍化について業界関係者は、実質可処分所得の減少傾向(図参照)や.年金改革(2018年10月15日記事参照)、付加価値税引き上げ(2018年8月6日記事参照)などの政策に起因する将来への不確実性の高まり、ルーブル安による輸入品の値上がりなどが消費者の節約志向を高めている結果、小売企業間のバーゲンなど値引き競争が加速し、利益率を引き下げていると説明している。年間で最も消費が活発化する新年前商戦(12月)についても販売量の大きな伸びは期待できず、全食品カテゴリーの製造・卸業者400社が加盟する団体「ルスプロドソユース」のドミトリー・ボストリコフ専務は、2017年比で5%程度の伸びにとどまるだろうと推測している。アルコール小売り大手シンプル・グループのユーリ・ウシャロフ販売・マーケティング部長も、競争激化で地場の食品小売りチェーン店は今後厳しい環境になるとの見方を述べている(「ベドモスチ」紙11月6日)。

図 実質可処分所得の伸び(前年比)の推移

(注1)純売上高から卸売高を差し引いたもの。小規模スーパーマーケット、スーパーマーケット(既存ハイパーマーケット含む)、ドラッグストアのチェーン店の売上高から成る。

(注2)売上高から卸売高やフランチャイズ収入その他の収入を差し引いた、X5リテール・グループ直営店舗の営業売上高のこと。

(高橋淳)

(ロシア)

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