トランプ大統領、NAFTA新協定署名の意思を議会に通知

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2018年09月03日

トランプ大統領は8月31日、北米自由貿易協定(NAFTA)の新協定署名に向けた議会通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行った。「2015年大統領貿易促進権限(TPA)法」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注)は、通商協定の署名の90日前までに議会に署名の意思を通知することを大統領に義務付けている。米国政府とメキシコ政府は8月27日にNAFTA再交渉の基本方針に関する暫定合意を発表しており(2018年8月28日記事参照)、メキシコのペニャ・ニエト大統領が11月末に退任するまでに新協定の署名を終わらせる意向を示していた。TPAが適用されれば、今回の議会通知により、11月29日以降にNAFTA新協定の署名が可能になる。

産業界、労組、議会は3カ国間協定の維持求める

ただし、カナダとの合意はまだ成立していない。トランプ政権は当初、8月31日までにカナダが合意しない場合はメキシコとの2国間協定の締結を議会に通知するとしていた。しかし、今回の通知では、高水準の貿易協定の締結に、妥当な期間内にカナダが合意した場合は貿易協定を締結すると記載し、カナダの参加可能性を残した。

産業界と労働組合はカナダを含めた3カ国間協定の維持を求めている。米国商工会議所のトーマス・ドナヒュー会頭は交渉の進展を評価しつつ、「3カ国間協定以外の協定は議会の承認も産業界の支持を得られないだろう」と牽制外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。米国労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)や全米鉄鋼労働組合(USW)など6団体も「(メキシコとの)2国間協定を進めるのは間違いであり、最終協定にカナダが含まれるよう引き続き求めていく」との共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。これら労組にはカナダの労働者も加盟している。

議会でも3カ国間の協定維持を求める声が強い。下院歳入委員会のケビン・ブレイディ委員長(共和党、テキサス州)は、合意するようカナダに強く求めるとしつつ、今回の政権の提案が、TPAが条件としている高水準の合意内容を満たしているかを同僚議員や有権者と協議すると発言外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。上院財政委員会のオリン・ハッチ委員長(共和党、ユタ州)も同様に、カナダを含めることと、知的財産権に関する強力なルールを盛り込むことを求める声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。このほか、通商専門家からはメキシコとの2国間協定ではTPAの条件が満たされないとの指摘もある。トランプ政権は2017年5月のNAFTA再交渉の開始時にもTPAに基づいた議会通知PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を行っているが(2017年5月19日記事参照)、同通知にはNAFTAの再交渉をメキシコおよびカナダと行うと明記されているためだ。なお、トランプ大統領自身は9月1日のツイートで「公平な合意が結べないのであれば、カナダは外す」「議会はこの交渉に介入すべきではなく、介入すれば私はNAFTAを完全に終結(terminate)させる」と述べている。

今後1カ月以内に最終的な協定文を公開

カナダとの協議は9月5日に再開される。ただし、TPAは署名の60日前までに協定文を公開することを求めており、カナダとの合意の有無にかかわらず、2018年内に署名するには、政権は最終的な新協定の内容を今後1カ月以内に発表する必要がある。

また、仮に11月末に署名にこぎ着けた場合でも、国内法制化は中間選挙後に新たに招集される第116議会が担う。上下院いずれかで共和党が多数を失うと、協定発効に支障を来す可能性もある。

(注)米国憲法では外国との通商関係は議会が管轄している。TPA法は、この通商交渉に関する権限を大統領に一時的に付与するもの。TPAが大統領に与えられている場合、議会に対する報告・相談義務など、TPAに定められた目的や手続きにのっとって政権がまとめた通商協定法案は、議会で修正を受けずに賛否のみの採決に付すことができる。

(鈴木敦)

(米国、メキシコ、カナダ)

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