トランプ政権、NAFTA再交渉の意向を議会に通知

(米国)

ニューヨーク発

2017年05月19日

 トランプ政権は5月18日、大統領貿易促進権限(TPA)法の手続きにのっとり、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を開始する意向を議会に通知した。再交渉は8月16日以降に開始される見込み。通知書では保護主義的な政策は影を潜めており、民主党議員や労働組合は大統領の政策転換を牽制する声明を出した。通商代表部(USTR)は今後、議会との協議や利害関係者からの意見募集を行った上で、7月17日までに交渉目的の詳細を公開する見通しだ。

再交渉の開始は8月16日以降

ロバート・ライトハイザーUSTR代表は5月18日、2015年6月29日に施行した「2015年超党派議会貿易優先事項説明責任法」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2015年TPA法)の手続きにのっとり、NAFTAの再交渉に向けた大統領の意向を議会に通知PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。

米国憲法では外国との通商関係は議会が管轄しているが、TPA法(別名「ファストトラック」法)は、この通商交渉に関する権限を大統領に一時的に付与するものだ。議会に対する報告・相談義務など、同法に定められた目的や手続きにのっとって政権がまとめた通商協定法案は、議会で修正を受けずに賛否のみの採決に付すことができる。

2015年TPA法は大統領に対して、通商交渉開始の90日前までに交渉目的などを記載した書面で交渉開始の意向を議会に通知することを求めている。議会への通知が行われたことで、8月16日以降であれば大統領はNAFTAの再交渉を始めることができる。ライトハイザー代表は、年内に交渉を終了させたいとしている(ロイター5月18日)。

NAFTAの「近代化」を強調

通知書は再交渉の目的について、協定内容の「近代化」(Modernization)の必要性を挙げた。25年前に交渉された協定内容の多くは既に時代遅れとなっているとした上で、デジタル貿易、知的財産、規制実施、国有企業、サービス、税関手続き、衛生・植物検疫措置、労働、環境、中小企業支援の分野について、新たな規定を付け加えるべきとの方針を示している。

これらの分野は、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の交渉分野と重なる。ライトハイザー代表は3月14日に開かれた承認に向けた上院公聴会で、TPP協定でのメキシコやカナダとの合意事項を基本としつつNAFTAの再交渉を進めていくべきとの見解を示している。ウィルバー・ロス商務長官も同様の見解を示しており、米国政府はTPPの合意事項を1つのベースとして再交渉に臨むとみられている。

大統領の政策転換を警戒する声も

2ページにまとめられた通知書は、TPA法に記載された目的にもおおむね沿うものとなっており、トランプ大統領が選挙期間中から掲げてきた関税引き上げなど保護主義的な政策は明記されていない。3月に議員間で回覧された通知書のドラフト案(8ページ)からページ数は大きく減っており、ドラフト案に盛り込まれていた原産地規則の変更やセーフガード措置の導入、税務上の平等な扱いの確保などに関する記述も消えている。「相手国の合意事項の効果的な実施(effective implementation)と積極的な履行(aggressive enforcement)を達成する」との記載はあるが、具体的な内容の記述はない。

米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は「(トランプ)大統領はNAFTAを歴史上最もひどい貿易協定と呼んできたが、彼の政権は改革の方向性において矛盾したシグナルを出している。NAFTAの中で最も大きな問題である幾つかの事項が維持される可能性が高まっている」と警戒の声を上げている。

下院少数党院内総務のナンシー・ペロシ議員(民主党、カリフォルニア州)は「曖昧な内容のNAFTAの通知書は、大統領が選挙期間中に約束してきた積極的な約束(aggressive promises)と著しく対照的」と政権を牽制した。上院少数党院内総務のチャック・シューマー議員(民主党、ニューヨーク州)は、通知自体は歓迎するとしつつ、「これまでの政権の貿易政策は言葉だけで行動が伴っていない」と述べ、詳細を注視していく必要があるとした。

ライトハイザー代表は「米国の消費者、企業、農家、牧場経営者、労働者の利益を増進させる協定をつくるために、USTRは議会や利害関係者と引き続き話し合いを続けていく」と述べている。

2015年TPA法105項は、交渉開始の30日前までに、各交渉分野について包括的で詳細な交渉目的をウェブサイト上で一般公開することを義務付けている。USTRは今後、NAFTAの再交渉に関する方向性や内容などについて意見募集を行い、8月16日に再交渉が始まる場合には遅くとも7月17日までに交渉目的の詳細を公開する見通しだ。

(鈴木敦)

(米国)

ビジネス短信 805cec6014cf1368