NAFTA再交渉、米国とメキシコ間で基本方針の暫定合意

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2018年08月28日

米ホワイトハウスは8月27日、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉について、米国とメキシコ間で基本方針に関する暫定合意が成立したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

自動車の原産地比率を75%に引き上げ

米通商代表部(USTR)の発表資料(製造業)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、新合意は自動車に関して、現行62.5%の原産地比率を75%に引き上げる。また、自動車の40~45%以上の部品が時給16ドル以上の労働者により生産されたことを、NAFTA利用の条件とする。一方、現行のトレーシングルール(注1)を撤廃・改正するかについては記載されていない。

繊維・アパレルに関しても、原産地規則を厳格化する。アパレル製品がNAFTA原産と見なされるためには、それらの製品に使われる縫い糸、ポケット布、ゴムバンドなどの生産工程が加盟国内で行われていることが必要とされた。また、ヤーンフォワードルール(注2)の適用除外規定の適用範囲を狭める方針を示した。そのほか、化学や鉄鋼使用の多い製品、ガラス、光ファイバーなどの工業製品についても、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定での合意より厳しい原産地規則を導入するとしている。

農業分野の合意外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、「衛生植物検疫措置(SPS)」のルール強化や「地理的表示(GI)保護制度」の運用に係る透明性の向上などが盛り込まれた。知的財産権やデジタル貿易、金融サービス規制など、NAFTAの規定を現在の経済活動に合ったかたちにアップデートする「現代化」分野における合意外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます内容も発表されている。

31日の議会通知を期限にカナダと交渉

USTRのロバート・ライトハイザー代表は、大統領貿易促進権限法(TPA)(注3)に定められた米国議会への通知を8月31日に行うと発言している(通商専門誌「インサイドUSトレード」8月27日)。TPAの規定では、協定署名90日以上前までに米国議会に通知を行うことを政権に義務付けており、11月末で退任するメキシコのペニャ・ニエト大統領が新合意に署名するためには、8月末までにトランプ政権による米国議会への通知が必要になるためだ。

カナダのクリスティア・フリーランド外相は、8月28日からワシントンでの交渉に参加する。ライトハイザー代表は、31日の議会通知に間に合うタイミングでカナダと合意ができれば3カ国間協定として、合意ができなければ米国とメキシコ間の2国間協定として、署名に向けた米国議会への通知を行うとした。トランプ大統領は、カナダが米国とメキシコ間の2国間協定に後日参加することも歓迎する姿勢だが、カナダと別途2国間協定を結ぶ可能性もあると述べている。

なお、今回の米国とメキシコ間の合意内容には、米国が強く主張しているサンセット条項の導入や投資家対国家の紛争解決手続き(ISDS)の撤廃は記載されていない。ライトハイザー代表は、NAFTAの継続を5年ごとに判断するサンセット条項について、6年ごとに今後16年間の継続を判断する代替案が新合意に含まれるとしているが、同案へのメキシコとカナダの反応は現時点で明らかになっていない(「インサイドUSトレード」8月27日)。ISDSの撤廃についても、ライトハイザー代表は、石油・ガス、インフラ、発電、通信分野などは引き続き対象とする代替案を示した。

なお、トランプ大統領は、米国産の乳製品に対する関税障壁の撤廃などの米国側の要求に、カナダが応じない場合には、同国からの自動車輸入に関税を課すと発言している。

(注1)トレーシングルールについては2017年7月18日記事参照

(注2)ヤーンフォワードルールとその例外については2017年7月24日記事参照

(注3)大統領貿易促進権限(TPA)については2018年7月4日記事参照

(鈴木敦)

(米国、メキシコ、カナダ)

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