上院委、「円滑化された通関取り決め」には多くの疑問と指摘

(英国)

ロンドン発

2018年09月27日

英国上院の分科委員会は9月20日、政府のEUとの将来関係の白書(2018年7月13日記事参照)で示した「円滑化された通関取り決め(FCA)」および「合意なき離脱(ノー・ディール)時の通関上の課題」に関する報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公開した。

FCAはEUとの通関に関し、英国がEU仕向け地の物品に対しEUの関税・通商政策に基づきEUの代わりに関税を徴収し、仕向け地が英国かEUか不明の場合はどちらか高い方の関税を課し、場合によって企業が後ほど返金要求するものだ。

報告書によると、FCAを導入した場合、歳入関税庁(HMRC)の試算では、英国の輸入業者は年間7億ポンド(約1,043億円、1ポンド=約149円)の事務管理費が発生すると指摘、ノー・ディール時にはその額は180億ポンドまで膨らむとしている。加えて、FCAはEU側で受け入れられるまでに多くの課題が残っているとして、政府は信頼できるモノの追跡システムの具体的な方法を示していないこと、欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は非EU加盟国がEUに代わり関税を徴収することを認められないとしていること、FCAに導入される返金のシステムはいまだにテストされておらず、開発および実装には数年かかると見込まれることを挙げた。

また、これまでEUの事業者としかビジネスをしてこなかった企業にとっては、EUとビジネスを継続する際、新たに貿易実務が発生することになり、その数は24万5,000社に上るとしている。通関手続き業務の一部は外部委託可能だが、それはコスト増につながると指摘した。また、通関書類の確認や一部のモノに関する規制によりサプライチェーンが混乱すると見込んでいる。まか、現行の事業者認定(AEO)は中小企業にとって特に障壁になるとし、FCAの下で中小企業が利用しやすい新しいAEOスキームを導入することを提案。新しいAEOスキームの相互認証が最も重要になるとした。

報告書を取りまとめた同分科委員会のバロネス・ベルマ議長は、「政府は、FCAについてどのようにモノが追跡されるか、徴税するか、返金システムが機能するのかなどの質問に対する回答を示さなければならない」とし、ノー・ディールのブレグジットは、その影響を緩和する選択が限られており、解決する技術が存在しないため、混乱を招くとした。

(鵜澤聡)

(英国)

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