原産地規則の例外措置をめぐり主張分かれる-NAFTAに関する公聴会・パブリックコメント(繊維・アパレル業)-

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2017年07月24日

北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に関して米通商代表部(USTR)が実施したパブリックコメントや公聴会での意見表明を主要産業ごとに紹介するシリーズ最終回は、繊維・アパレル業。繊維団体が原産地規則の例外規定の撤廃を主張する一方、アパレルや流通団体は域外国からの輸入品の扱いに関する柔軟性の維持を求めている。

繊維団体:原産地規則の例外規定撤廃を要求

全米繊維団体協議会(NCTO)のオーガスティン・タンティロ会長兼CEOは公聴会で、「われわれはトランプ大統領によるNAFTAの再交渉を強く支持する」と述べ、協定内容を現代化することで米国の繊維生産や雇用を増加させることができるとの見方を示した。

NCTOは具体的には、「ヤーンフォワード」ルールの適用除外規定の見直しなどを求めた。「ヤーンフォワード」ルールは、自由貿易協定(FTA)の特恵税率の適用を域内産の原糸を用いた生地(最終的にはそれらを用いた繊維・アパレル製品)に限る原産地規則で、米国が締結するFTAの多くに含まれており、NAFTAでも多くの繊維・アパレル製品が適用対象となっている。ただし同ルールには、企業の生産活動に配慮した例外措置も規定されている。例えば、上記の基準を満たさない特定の原糸・繊維・アパレル製品については、各製品の輸入上限量の範囲内であれば域外国からの輸入品であっても、縫製などの製造工程を協定国で行うことにより、協定税率での域内輸出を認める例外措置である「非原産繊維製品特恵関税割当(TPLs:Tariff Preference Levels)」が設けられている(注1)。

タンティロ会長兼CEOは、NAFTAのTPLsにより「中国製の原糸で作られた繊維がメキシコで縫製されることで、米国に無税で輸出することが許可されている」とし、加盟国の企業ではなく中国やインドなど非加盟国の企業がNAFTAの恩恵を享受していると批判した。NCTOは、NAFTAにおけるTPLs措置の撤廃を要求している。

NCTOはまたパブリックコメントにおいて、米国で裁断された生地を基にメキシコで縫製されたアパレル製品に対して関税を免除する「特別制度(Special Regime)」(両国間で特別に設定されたTPLs)や、男性用シャツや綿製の寝間着などに適用されている「1工程ルール」(縫製さえ加盟国で行えばNAFTA原産が認められる原産地規則)の見直しも求めている。

全米綿花評議会(NCC)などの綿花団体も連名でパブリックコメントを提出し、「NAFTAには残念なことに『ヤーンフォワード』ルールの効果を弱体化する例外規定がある。現代化するNAFTAはこれらの例外規定を見直し、撤廃を検討すべき」と述べた。また、化学繊維メーカーが加盟する米国化繊協会(AFMA)も、NCTOの意見書への支持を表明している。

アパレル・流通団体:柔軟性の担保を求める

一方、米国アパレル・履物協会(AAFA)ステファン・ラマー上級副会長は、域外国からの輸入も一部可能とする柔軟性を維持することが米国を含むNAFTA域内企業の競争力にとって重要だと強調した。同協会には、ラルフローレンやギャップ(GAP)などの主要アパレルブランドも多く加盟している。AAFAはパブリックコメントにおいても、企業戦略の柔軟性に制約を加えれば、TPLsを利用して衣服やメリヤス製品を製造しNAFTA加盟国に輸出している米国の製造業などに損害を及ぼすと主張している。

全米小売業協会(NRF)もパブリックコメントに、「現状のTPLsやその他の柔軟性を担保するNAFTA内の制度は、米国の小売業や製造業者に利益をもたらしており、これらを維持するよう政権に求める」と明記した。

ジーンズ製造のリーバイ・ストラウスも個別にパブリックコメントを提出し、AAFAやNRFの主張に完全に同意すると述べ、「NAFTAは十分に機能しており再交渉の必要性は見いだせない」「交渉がうまく進まない場合にNAFTAから離脱するというトランプ政権の脅しに対しては大きな懸念を持っている」と強い言葉で牽制した。同社が公表しているサプライヤーリストにはメキシコの製造工場も多く含まれている。

バイアメリカン条項の強化を主張

NRFはまた、国防総省が調達する繊維・衣服・履物などを米国製品に限ると定めたベリー修正条項の維持を主張している。NAFTAの政府調達規定の見直しにより、ベリー修正条項が弱体化する可能性を懸念していると述べている(注2)。

NCTOやNCCはまた、キッセル修正条項(注3)で、国土安全保障省(DHS)の調達は米国産生地と義務付けているにもかかわらず、DHS傘下の米国運輸保安局(TSA)の調達ではメキシコとカナダ産生地が米国産扱いになっていることを指摘し、再交渉においてこの例外扱いを取り除くよう求めている。NCTOは、2016年度のTSAの繊維・衣服購入は合計2,400万ドルに上るとの政府発表データを紹介している。

(注1)製品や輸入上限量の詳細は商務省国際貿易局・繊維衣料品部(OTEXA)ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。

(注2)ベリー修正条項やキッセル修正条項では、「米国製品」と見なされるためには当該製品が完全に米国で製造されることが条件となる。その他の一般的な連邦政府の調達において米国製品の購入を義務付ける「1933年バイアメリカン法」では、製造品については部品の調達比率が50%を超えることが「米国製品」の条件となっており、ベリー修正条項やキッセル修正条項の方が厳しい内容となっている。

(注3)米国議会調査局のレポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、WTO政府調達協定と米国が締結しているFTAの合意事項により、キッセル修正条項が適用されるのはTSAと港湾警備隊の2機関に限定されている。

(鈴木敦)

(米国、カナダ、メキシコ)

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