欧州自動車工業会、冷静に通商紛争回避を求める-トランプ大統領の名指し非難に対して声明を発表-

(EU、米国)

ブリュッセル発

2018年03月08日

欧州自動車工業会(ACEA)は3月6日、米国とEUの通商紛争回避を求める声明を発表した。米国のドナルド・トランプ大統領が3月1日に発表した鉄鋼とアルミニウムに対する輸入関税引き上げ方針に対して、欧州委員会や欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は、報復措置も辞さない厳しい姿勢を示している。こうした中、トランプ大統領にさらなる報復対象として名指しされたにもかかわらず、冷静に自由な通商関係の重要性を訴える欧州自動車産業界の対応は注目される。

自由で公正な通商関係を訴える

欧州自動車工業会(ACEA)は3月6日、トランプ大統領が3月1日に鉄鋼とアルミニウムに対する輸入関税引き上げ方針を発表(2018年3月5日記事参照)したことに端を発して、EUと米国間に通商問題が起こりつつある現状について声明を発表した。トランプ大統領は3月3日付のツイッターの投稿で、「EUが現状でも高水準の関税を米国企業に対してさらに引き上げるつもりならば、われわれは米国市場に流入しているEUの自動車に対する課税で対抗するだけだ」と、EUの自動車産業を名指しで非難した。こうした状況を踏まえて、ACEAは冷静にEUと米国間の自由な通商関係の重要性を訴える声明を明らかにした。

ACEAのエリック・ヨナー事務局長は「EUと米国の自動車産業は近年、統合が進んできた」と語り、それ故に、ACEAは自由で公正な通商関係を支持、その原点となる通商ルールを尊重するとし、EU市場向けの自動車輸出では金額ベースで米国が3位(2017年シェア:15.4%)を占めていること、逆に米国はEUにとって世界最大の自動車輸出先で、2017年シェアをみると、台数ベースで20.4%、金額ベースでは29.3%を占めていることなどを紹介した。

また、ヨナー事務局長は「欧州自動車メーカーは米国に輸出するだけでなく、米国国内に主要な生産拠点を置き、現地雇用や租税負担に多大な貢献をしている。幾つかの欧州メーカーは最大の生産拠点をEUではなく、米国に保有している(ドイツのBMWが米国サウスカロライナ州に置くスパルタンバーグ工場の生産能力は年産45万台に達し、同社グループでは世界最大の生産台数を誇る)」と指摘、米国経済に対する欧州自動車産業の貢献を強調した。同事務局長は、EUと米国が交渉してきた「包括的貿易投資協定(TTIP)」を念頭に、「EUと米国の自動車産業界は関税撤廃や規制調和を通じた非関税障壁の削減を進めることが、(双方)自動車産業界にとって、低コスト化や事業効率の改善、そして、高い安全性や環境基準の両立を実現する」と述べ、通商紛争を激化すべきではないとの姿勢をあらためて打ち出した。

米国への報復措置を辞さないEU側

欧州委員会は、トランプ大統領の鉄鋼とアルミニウムの輸入関税引き上げ方針発表に呼応するかたちで3月1日、直ちに米国の姿勢を問題視する声明を発表した。ジャン=クロード・ユンケル委員長は「われわれはこうした米国の国内産業保護だけを優先する、根拠のない露骨な(政府)介入について極めて残念に思う。保護主義は、今日の鉄鋼産業の問題の解決にはつながらない」「欧州の雇用を脅かし、われわれの産業を毀損(きそん)するような不当な動きをEUは看過できない」と強い口調で、米国の輸入関税引き上げ方針に抗議した。さらに、「EUは適切に対処することになる」として、米国に対する報復措置を検討していることを示唆した。欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)も「EUとして最速のタイミングで、ジュネーブ(WTOを示唆)での米国政府との紛争解決に向けた協議を追求する」考えを示し、同時に「欧州委として、市場動向を調査し、必要に応じてEU市場の安定性を確保するため、WTOに整合するかたちでのセーフガード措置を検討する」と述べた。また、マルムストロム委員は「鉄鋼・アルミニウムをめぐる問題の本質は経済性を無視した世界的な過剰生産にある。この問題を解決するためには(過剰生産を引き起こした)関係国と協議すべきだ。米国の一方的な行動に意味はない」と切り捨てた。

欧州鉄鋼連盟は「破滅的な選択」と批判

米国の輸入関税引き上げ方針の直接的な影響を受ける欧州鉄鋼連盟(EUROFER)も、3月2日付で「米国(トランプ大統領)は世界との通商摩擦を選択した」との声明を発表した。EUROFERによると、今後、関税(25%)が課されることになる鉄鋼の輸入は3,500万トン(2017年)、金額換算で300億ドルに相当するという。EUROFERは、今回の追加関税は法外な水準で、「米国・商務省が大統領に提示したオプションの中で、最も破滅的な選択をした」としている。また、トランプ大統領が「輸入数量割当(クオータ)制導入を選択していれば、EU加盟国を含む(米国にとっての)同盟国は打撃を免れていたかもしれない」との見方を示した。

EUROFERの見通しによると、2017年に500万トンに達していたEUの米国への鉄鋼輸出は相当の痛手を被るという。そして、今回の関税引き上げによって、米国の鉄鋼輸入量は最大で2,000万~2,500万トン縮小する可能性があるとしている。この前提に立ち、EUROFERは「世界的な(鉄鋼の)供給過剰状態の根本原因の解決を関係国政府に求める」としている。また、3月7~9日にパリで開催予定の「鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム閣僚会合」での問題解決に期待しているという。EUROFERのアクセル・エガート会長は「われわれは欧州委員会の、EU域内の産業の利益・雇用を守るために、適切な措置を迅速に発動するとの発表を歓迎する」「EUは2017年から続くわれわれの産業の緩やかな回復が、EUにとって最も重要な同盟国によって破壊される事態を見過ごしてはならない」と語っている。

(前田篤穂)

(EU、米国)

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