鉄鋼・アルミの輸入関税引き上げにエネルギー業界が反発-コスト上昇や雇用への影響を懸念-

(米国)

米州課

2018年03月05日

トランプ大統領が3月1日に発表した鉄鋼とアルミニウムの輸入関税引き上げの方針に、米国内の石油・天然ガス業界が反発している。米国では輸送用パイプライン用の特殊鋼や掘削に使われる堀管などの鉄鋼製品は輸入に依存しており、今後のエネルギーインフラ投資、石油・天然ガスの生産に当たって、コストの上昇や雇用への影響が懸念されている。

パイプラインや掘削装置の鉄鋼製品は輸入に依存

トランプ大統領は3月1日に、通商拡大法232条に基づく鉄鋼とアルミニウムの輸入関税引き上げの方針を発表した。これに対して、米国内の石油・天然ガス業界が一斉に反発しており、米国石油協会(API)のジャック・ジェラルド会長は「今回の大統領の決定は、エネルギー産業の再生と世界水準のインフラを目指す政策と相いれない。米国の石油ガス業界は国内で生産されていない特殊鋼材に依存している」と表明した。APIによると、米国の石油・天然ガス業界は、掘削・生産設備、輸送用パイプライン、液化天然ガス(LNG)ターミナル、製油施設、石油化学プラント建設などに当たって、その多くを海外からの鉄鋼製品に依存しているという。

米国石油パイプライン協会(AOPL)は2017年に行った調査で、貿易制限措置により鋼管のコストは25%上昇するとみている。鋼管のコスト上昇により、カナダ・アルバータ州の重質油および米ノースダコタ州バッケン地区からのシェールオイルを米国中西部とメキシコ湾岸へ供給するキーストーンXLパイプライン計画のような大規模プロジェクトでは3億ドルのコスト上昇に、また全長280マイル(約450キロ)程度の一般的なパイプラインでも7,600万ドルのコスト上昇につながると分析している。

鉄鋼製品の輸入に25%の関税を賦課する方針と発表された3月1日、米国産の熱間圧延鋼板の市況は1トン当たり792.75ドルと、前日比で15.75ドル(2.03%)上昇し、7年ぶりの高い水準に跳ね上がった。AOPLのアンディ・ブラック会長は「鉄鋼の関税引き上げは、パイプライン建設の遅れや中止で米国の雇用に大きな影響をもたらす」と批判している。

天然ガスについては、メキシコやカナダなど周辺国のみならず、南米、欧州、アジアへ向けてガスを液化して輸出するプロジェクトが動き出している。米国LNGセンター(CLNG)のチャールズ・リドル専務理事は「LNG輸出プロジェクトは米国内に雇用を創出するとともに、輸出を通じて米国の貿易赤字を削減し、輸出先の環境改善にも貢献している。鉄鋼関税の引き上げはこうしたLNGプロジェクトに意図せざる悪影響を及ぼす」としている。

パイプラインはエネルギー業界の生命線

米国の石油・天然ガスの輸送を支えているのが、国内に縦横に走るパイプライン網だ。石油・石油製品用が総延長19万マイル(約30万キロ)、天然ガス用が35万マイル(約56万キロ)に及び、生産地と消費地を結んでいる。さらに最近では、メキシコやカナダなど周辺国との石油・天然ガス貿易もパイプライン経由で行われている。

AOPLによると、今後25年にわたり新規の石油・天然ガス・パイプライン建設に毎年460億ドルが投資される見込み。建設に当たっては100マイル(約160キロ)当たり500人の労働者が必要となるほか、50マイルごとに設置される昇圧用ステーションの要員も含めると、通常のパイプライン建設プロジェクトでは7,000人の雇用が創出されるという。パイプラインは米国エネルギー業界の生命線で、その建設による雇用創出効果は大きいという。

(木村誠)

(米国)

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