欧州委はWTOルールにのっとった対策を準備-米の輸入関税導入、欧州鉄鋼業界は報復措置を支持-

(EU、米国)

ブリュッセル発

2018年03月09日

欧州委員会のユルキ・カタイネン副委員長は3月8日、米国の鉄鋼・アルミニウムに対する輸入関税引き上げの方針について、EUの適用除外に期待感を示したものの、同日、トランプ米大統領が輸入関税賦課に関する大統領令に署名し、期待は裏切られる格好となった。欧州鉄鋼連盟(EUROFER)はWTOへの提訴も視野に、欧州委に厳しい対抗措置を求めつつ、世界的な鉄鋼の供給過剰の根本原因は「中国にある」との考えを示唆している。

適用除外への期待を裏切られたEU

欧州委員会のユルキ・カタイネン副委員長(雇用・成長・投資・競争力担当)は3月8日、「EU資本市場同盟」に関する記者会見の席上、「鉄鋼・アルミニウムに対する輸入関税引き上げをめぐる米国の動静」(2018年3月8日記事参照)を問われ、「憂慮しながらも、その結果を心待ちにしている」と述べ、北米自由貿易協定(NAFTA)のカナダとメキシコだけではなく、EUに対する適用除外に期待感を示した。しかし、トランプ米大統領が同日(米国時間)、輸入関税賦課に関する大統領令に署名したことから、EU側の期待は裏切られる結果となった。欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は3月8日付のツイッターに、(EUに対する適用除外を期待しつつ)「土曜日(3月10日)にブリュッセルで米通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表と会談するのが楽しみだ」と指摘しており、今後の動向が注目される。

欧州鉄鋼産業にとっては「死活問題」

欧州委は3月7日、欧州委員の合議体(College of Commissioners)レベルでこの問題について協議し、WTOルールで認められる範囲のセーフガードなどの対抗措置を米国に対して発動することを了承している。この時も、マルムストロム委員は「もし(米国の)このような措置が発動されたとすれば、EUの産業界の打撃となることは明らかだ。数千人単位で欧州の雇用を危険にさらすことになる。適切な対抗措置を打たねばならない。ただし、われわれは米国の対応とは異なり、WTOルールにのっとった3段階の対策を講ずることになる」との考えを明らかにしている。

この欧州委の発表を受けて、欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は3月7日、(鉄鋼に対する輸入関税引き上げが実施された場合の)「欧州委員会の対抗措置を支持する」と表明しており、強硬姿勢で応じる構えだ。同連盟は、欧州産業界を守る措置の発動は欧州鉄鋼産業の生死に関わる問題だとしており、アクセル・エガート会長は「欧州鉄鋼産業に深刻な打撃を及ぼす、(米国市場に輸出できなくなった第三国産・鉄鋼の)輸入急増や在庫拡大を回避するため、EUは直ちに発動できるようセーフガード措置を準備すべきだ」と語っている。

また、EUROFERは「これまでのEUの通商防衛措置にもかかわらず、EUの鉄鋼(全商品)輸入は4,000万トン(2017年)と高水準に達する。EUはアンチダンピング、反不当補助金などの措置を行っているが、そのほとんどは中国に対するものだ」と、世界的な供給過剰の根本原因は「中国にある」との考えを示唆した。また、2018年1月以降の動向として、EUの鉄鋼(完成品)貿易の状況をみると、中国以外の「ロシア、トルコ、インド、韓国、ベトナム、ベラルーシ、ウクライナ」などからの輸入が急増していると指摘した。

ただ、EUROFERとしては「世界的な(鉄鋼の)過剰供給の根本原因に対して、各国政府が本質的な対応で臨むことがこれまで以上に求められている」として、生産能力の削減や(鉄鋼)市場を歪める不当な政府補助などの抑止について、鉄鋼グローバル・フォーラム閣僚会合などの機会に各国政府が本腰を入れることに期待感を示した。

(前田篤穂)

(EU、米国)

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