外資規制を人工知能などハイテク分野に拡大へ

(フランス)

パリ発

2018年03月06日

エドアール・フィリップ首相は2月16日、外資規制を適用する戦略的分野を国防やインフラ分野から人工知能(AI)、宇宙、データストレージなどハイテク分野に拡大する方針を示した。革新的技術を開発したベンチャー企業やスタートアップ企業を、外資による敵対的買収から守ることが狙い。買収に際し外国企業に事前認可の取得を義務付けるほか、知的財産権の移転について政府が拒否権を行使できる「黄金株」の導入を図る。

米国や中国の動きへの対抗措置

フィリップ首相は、企業の成長支援に向けた政策策定の中で、戦略的企業を外資から守る措置を強化する方針を明らかにした。首相は「保護主義は容認できない」としながらも、「われわれは世間知らずでいるべきではない。企業の防衛措置を強化し、国益を保護する必要がある。米国や中国がこれまで長いこと実施してきたことだ」とし、米中への対抗措置として外資規制を強化する意向を示した。具体的には以下の4つが政策の柱となる。

  • 2014年のデクレ(政令)「国防やインフラなど特定分野でフランス企業への出資を希望する外国企業に事前認可の取得義務付け」の適用と、AI、宇宙、データストレージ、半導体などのハイテク分野に拡大する(2014年5月23日記事参照)。
  • 事前認可の取得に向け外国企業が提示する国内事業計画(雇用維持、設備投資拡大など)の実施状況に対するフォローアップ措置を強化する。経済財務省による監督に加え、外部の独立事業者が定期的に監視することで、外国企業が誓約したプロジェクトの実施をより確実にする。
  • 誓約されたプロジェクトが実施されていない場合の制裁措置を、「実際に抑止力となるよう整備する」(フィリップ首相)。2014年のデクレでは罰則として5年の禁錮刑、企業資産の没収、投資額の2倍を上限に制裁金を科すなどが規定されていたが、「レゼコー」紙(2018年2月17日)によると、これまで一度も罰則が適用された例はない。
  • 買収されたフランス企業が持つ知的所有権の移転、フランス国外への拠点移転、株式の売却などについて、政府に拒否権を与える「黄金株」の導入を図る。これまで国防など戦略的な分野に限定されている黄金株を、国益に関わる知的財産権の移転にも拡大する。

これらの措置は4月18日に閣議提出され、「企業の成長・変革のための行動計画」の中に盛り込まれる予定だ。

スタートアップ企業は投資資金の縮小を懸念

政府は、フランスの製造業再生の柱としてイノベーションをベースにしたハイテク産業、知識集約型産業構造への転換を掲げるが、中国企業の対フランス直接投資拡大に伴い、近年は中国系投資ファンドがハイテク企業やスタートアップ企業に出資する案件も増えている(2017年12月5日記事参照)。外資規制の強化により、先端技術の海外流出に歯止めをかけたい考えだ。

ただ、「フレンチテック」(2015年11月24日記事参照)の呼称で知られる国内のITスタートアップ企業は、規制強化の動きを懸念している。スタートアップの国内の資金調達市場では、外資系ベンチャーキャピタルの存在が高まっており、外資規制の動きはリスクマネーを必要とする技術系ベンチャーにとって外国からの投資資金の縮小につながりかねない。ベンチャーやスタートアップ企業からは、事前認可を受けるために必要な審査期間や審査基準など明確化することを政府に求める声が出ている。

(山崎あき)

(フランス)

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