政府、外資規制をエネルギー分野などにも拡大−欧州委は保護主義の台頭を懸念−

(フランス)

パリ事務所

2014年05月23日

政府は5月15日、外国企業の対フランス投資について事前認可が必要となる業種を、エネルギー、水資源、運輸、電子通信サービスなどに広げる政令(デクレ)を発表、5月16日に発効した。これは重電大手アルストムが4月に発表した、米国複合企業ゼネラル・エレクトリック(GE)へのエネルギー事業売却計画に対する政府の関与を法的に正当化するもの。発表を受けて欧州委員会は、フランスにおける保護主義の台頭を懸念、「EU法の枠内か、注意深く検証する」方針を示した。

<政府の事前認可の義務対象を追加>
従来、EU加盟国に本社がない企業によるフランス企業の買収については、賭博、国防、民間警備、通信傍受・盗聴機器、IT製品・システムのセキュリティー評価サービスなどの業種で経済担当相の事前認可が義務付けられていたが、今回のデクレ(注)により、新たに「国防、公共安全、公共秩序に関わる国益を保障するために不可欠となるサービス供与、製品、素材に関わる以下の6つの分野」が付け加えられた(表参照)。

a)電力、ガス、炭化水素、その他のエネルギー源の保全、安全性、調達の保障
b)水資源の保全、安全性、調達の保障
c)運輸サービス・ネットワークの保全、安全性、運営の保障
d)電子通信サービス・ネットワークの保全、安全性、運営の保障
e)国防の観点から極めて重要な企業、施設、生産物の保全、安全性、運営の保障
f)公衆衛生保護

政府は外資規制強化について、「これは政府が(国益を守るという)正当な目的が外国からの投資に関して適切に考慮されることを明確にするためのもの」と説明。外国企業によるフランス企業の買収に際し、事前認可を監督する経済担当相に「国益を守るために必要であれば、特別な投資条件を課すことができる」権限を与えた。

政府の事前認可が必要な業種

<背景にアルストムのエネルギー事業売却案>
今回の規制強化の背景には、アルストムが4月、GEへのエネルギー事業売却について、政府の事前協議を経ずに筆頭株主であるフランス通信・建設大手ブイグの合意を得ていた経緯がある。

アルノー・モントブール経済・生産再建・デジタル相は4月27日、「ブルームバーグの報道で同買収案件の存在を知った」とし、「政府はフランス経済・産業に対する戦略的な問題点について配慮し、それがどんな内容であるにせよ、国益に照らした選択肢を検討することなしに足早に行われた決定を承認しない」との声明を発表した。

同相はまた、「4月27日にドイツ重電大手シーメンスが、アルストムにエネルギーと運輸分野で欧州および世界における2大チャンピオンをつくるための買収案を提示した」こと、またフランスにおける「国内雇用維持と原子力産業の優位性・独立性の持続」という2つの観点から「政府はGEとシーメンスによる買収案を精査し、経済面で関与していく」意向を示した。

GEは 5月15日、フランス通信社(AFP)を通じ、外資規制強化のデクレ発効により、アルストムのエネルギー事業買収にはフランス政府からの事前認可が必要になることを「承知した」とする声明を発表。「フランスにとってのエネルギー部門の重要性を認識しており、政府と建設的な協議を続けていく。われわれが示した事業案はアルストムにとってもフランス国内の従業員にとっても最良のものだ」と強調した。

GEは4月30日、アルストムの火力発電、再生可能エネルギー、送電事業を123億5,000万ユーロで買収する案を提示。その際、「フランスにおける雇用、特に高度な技術関連費用を増やすほか、地方での生産を拡大すること」「送電事業、水力発電、洋上風力発電、蒸気タービンの4つの事業についてフランス国内にグループの世界統括拠点を設置すること」「フランス原子力産業の独立性を守るため、フランス政府、原子力大手アレバ、フランス電力公社(EDF)と協力すること」などをオランド大統領宛ての書面で誓約していた。

<欧州委はEU法の枠内か検証の意向>
外資規制強化の正当性について、モントブール経済・生産再建・デジタル相は5月15日付「ル・モンド」紙のインタビューで、「EU法やフランスの国際社会における公約に準ずるもので、既にEU加盟国の大部分で導入されている」と説明、法規制上は何ら問題がないことを強調した。

他方、欧州委のミシェル・バルニエ域内市場・サービス担当委員は同日、「EU条約で示されているように、公共安全や公共秩序に関するものであれば加盟国が国益を守る目的は不可欠となる。しかし、われわれはその目的がバランスよくうまく適用されるか検証しなければならない。そうでなければ、保護主義に後戻りするからだ」として、フランスの外資規制が「EU法の枠内か、注意深く検証する」意向を明らかにした。

(注)大統領または首相によって署名された一般的または個別的効力を有する決定のこと。政令と訳される。

(山崎あき)

(フランス)

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