東北部における景気回復は限定的-タイの地方経済(2)-

(タイ)

バンコク発

2018年03月30日

東北部は、タイで最も貧しい地方と言われている。農業以外の産業がない他、インフラ整備も不十分であるためだ。他方、労働力が豊富であり、かつ労働者の賃金水準も首都バンコクと比べ低いため、今後の成長余地は大きい。シリーズの第2回目として、タイ東北部の経済を紹介する。

農業の依存する東北経済

東北部は20県で構成されている。東北部経済の特徴は、第1次産業の比重が高いことだ。産業別GRPのシェアを見ると、第1次産業が21%、第2次産業が26%、第3次産業が53%と、農業の割合がそれほど大きくない。

しかし、産業別就業人口構成比を見ると、第1次産業従事者は51%に達し、農業関連の就業人口が過半数を超えていることがわかる。東北部では、多くの労働力が生産性の低い農業に依存していると言えよう。

こうした結果を踏まえ、JETROバンコク事務所は、東北部のコンケン県およびナコンラチャシマ県にある政府機関、および日系企業に対してヒアリング調査を実施、現地経済の概要を調査した。

現地のタイ政府関係者は、東北部の景気は改善していないと認識している。むしろ、昨今の干ばつの影響で農産物生産は減少し、経済は低迷しているという。東北部は農業中心の経済構造であるため、全国的に好調な輸出産業(製造業)の恩恵は受け難いと言えよう。そのため、今後の東北部経済の回復には時間がかかると思われる。

都市部とのアクセス改善に期待

他方、今回のヒアリング調査で、現地政府が期待を示していたのは、コンケン市内とバンコクとを結ぶ鉄道(在来線)の複線化工事である。同工事は2019年の完成を見込んでいる。

同複線化により、バンコクからコンケン県への物流アクセスが大幅に改善されるため、地元経済への波及効果が期待されている。また、今まで東北部に関心を示さなかった企業が、同地域への新たな投資を検討するきっかけになるとも期待されている。

一方、ナコンラチャシマ県でも、2019年完成予定の高速道路建設に対する期待が高い。現在、片道4時間かかる同県からバンコクまでのアクセスが、2時間半に短縮されるため、やはり地元経済への波及効果が期待されている。

投資環境、安定した労働市場に期待

東北部にも日系企業は進出している。例えば、ナコンラチャシマ県には、ナワナコン工業団地とスラナリ工業団地という2つの大きな工業団地があり、多くの日系企業が入居している。入居企業は主に電子部品や機械部品、そして加工食品などを製造する企業である。

現地日系企業によると、東北部に進出するメリットは、労働者の賃金水準が首都バンコクと比べ低いこと、また労働争議の発生が少ない、離職率が低いなど、安定した労使環境だという。

課題は、取引先工場がバンコク近郊に集中している場合が多いため、調達や納品にかかる輸送コストが高いことだ。

なお、東北部でも市街地には日本語が通じる医療機関もあり、駐在員の住環境として、大きな課題は無いと思われる。

今後、バイオ燃料の供給拠点に

東北部経済の将来性について、現地政府関係者は「東北部の強みである農産品を、バイオ産業の原材料として首都圏に供給し、バンコク周辺との経済的結びつきを強めたい」と期待する。こうした背景から、日系企業に対しても、農産物分野における投資拡大への期待が大きいようだ。

(阿部桂三)

(タイ)

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