税恩典の一方でロジスティクスや現地調達義務に課題-マナウス・フリーゾーンの投資環境-

(ブラジル)

サンパウロ発

2018年03月01日

マナウス・フリーゾーン(ZFM)の進出企業は手厚い税恩典を得られる一方、主要消費地で部材調達地でもあるブラジル南東部との距離や基礎製造工程基準の履行といった課題があり、それらがコストアップ要因となる。ZFMの売上高は、電気・電子分野を中心に徐々に回復傾向にあるが、中長期的にはブラジル政府が進める通商協定の進展に伴う影響なども注視する必要がある。

ZFM内で電気・電子製品や情報財が回復傾向

ZFMは、1967年2月28日付行政令第288号により設けられた税恩典地域だ。ZFMは一定期間の存続を前提として設立された経緯があり、2014年の憲法改正でその期限が2023年から50年間延長され、2073年までと定められた。ZFMの税恩典は、連邦税として輸入税(II)、工業製品税(IPI)、社会統合基金・公務員厚生年金および社会保険融資負担金(PIS/COFINS)の減免、さらには法人所得税(IRPJ)の減免(注1)がある。州税では、商品流通サービス税(ICMS)の減免制度がある(注2)。ZFMに進出する企業が恩典を享受するには、製造する製品ごとに実質的な現地調達義務を定めた基礎製造工程(PPB)基準を満たすことが必要となる。フリーゾーン内で類似製品が製造されている場合は既存PPBに従って生産し、類似製品がない場合は新たなPPBを申請して認可を受ける。

ZFMの売上高は、国内景気低迷の影響を受けて2015年、2016年に前年を下回る水準で推移したが、2017年は1~11月で749億4,700万レアル(約2兆4,733億円、1レアル=約33円)と2016年通年の売上高(747億1,200万レアル)を上回り、回復の兆しがみられる(表参照)。特に、電気・電子製品(2017年1~11月のシェア:29.6%)、情報財(20.5%)での回復が目立つ。その一方で、二輪(13.3%)は依然として停滞傾向だ。

表 マナウス・フリーゾーンの売上高推移(名目ベース)(単位:100万レアル、%)
項目 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
(1~11月)
金額 シェア 金額 シェア 金額 シェア 金額 シェア 金額 シェア 金額 シェア
電気・電子 25,235 34.3 27,782 33.4 28,585 32.7 23,291 29.4 19,507 26.1 22,182 29.6
情報財 9,387 12.8 13,708 16.5 14,439 16.5 12,192 15.4 13,964 18.7 15,378 20.5
二輪 13,527 18.4 13,923 16.7 13,683 15.7 13,017 16.4 10,538 14.1 9,974 13.3
化学 9,622 13.1 10,213 12.3 11,010 12.6 11,556 14.6 11,631 15.6 8,687 11.6
鉄鋼 3,407 4.6 3,486 4.2 4,040 4.6 4,163 5.3 4,306 5.8 4,385 5.9
機械 3,268 4.4 3,903 4.7 4,499 5.1 4,420 5.6 3,795 5.1 4,355 5.8
熱可塑性プラスチック 3,405 4.6 4,030 4.8 4,448 5.1 4,232 5.3 4,368 5.8 4,275 5.7
その他 5,645 7.7 6,254 7.5 6,694 7.7 6,413 8.1 6,603 8.8 5,712 7.6
合計 73,497 100.0 83,299 100.0 87,399 100.0 79,285 100.0 74,712 100.0 74,947 100.0

(出所)マナウス・フリーゾーン監督庁(SUFRAMA)

ブラジル二輪車製造者協会(ABRACICLO)によると、二輪製品の中でもオートバイの生産台数はピーク時の2008年に214万907台を記録したが、景気低迷の影響によって年々減少し、2017年は88万2,876台とピーク時の4割程度の水準に落ち込んでいる。2017年の卸売販売台数は81万4,573台で、販売ピーク時(2011年、204万4,532台)の同じく4割程度となっている。四輪市場の販売が回復傾向にある中で、二輪市場は厳しい状況が続いている。

ZFM企業を悩ますコストアップ要因

ZFMで恩典を供与され活動を行う企業は、多国籍企業を含めて600社を超える。日系企業では、二輪および電気・電子機器メーカーを中心に約40社が進出している。ZFMへの立地は税恩典によるメリットがある一方、さまざまな課題やコストアップ要因が存在する。第1にロジスティクスだ。サンパウロをはじめとした消費地あるいは部材調達地からは約4,000キロの距離(マナウス~ベレン~サンパウロのルート)を河川および陸上、沿海ルートで、10~19日かけて輸送する必要がある。また、輸入に依存する部材は、アジア発だと時間がかかり2~3カ月先の需要を見込んだ発注が必要だ。これには需要変動と為替変動のリスクが生じる。さらに、通関で税関ストライキや現場の判断による貨物差し止めといった事例が報告されており、ロジスティクスをめぐる課題は多い。

第2に、フリーゾーンの税恩典を享受するために必要な、PPBをめぐる課題だ。品質と価格面で進出企業の要求水準に達する国内供給業者が少なく、輸入品に比べてコスト高になりがちだ。なお、一部の完成品メーカーでは内製率を高めるなどの工夫がみられるが、ZFM内あるいは国内供給業者の育成が必要との声も聞かれる。

また、新製品の導入に際して既存PPBに縛られ、非現実的で非経済的な現地調達義務を負うケースもある。新製品を投入することによって他社との差別化を図ろうとしても、PPBがその試みを阻むことがあり得る。

国内の高税率がZFMの優位性を支える構図

このようにZFM進出企業は、さまざまな問題でコストを負担することになるものの、ZFM域外での税負担が大きければ大きいほど、相対的な魅力が増す構図となっている。例えば、オートバイは実質的にZFMでしか製造されていないが、域外でシリンダー容積125立方センチ以下のオートバイ(NCMコード:8711.20.10)を輸入した場合に課せられる税率は、IIが20%、IPIが35%、PIS/COFINSが11.75%で、州税はサンパウロ州を前提とするとICMSが12%かかる(注3)。これらを単純に足し上げれば8割弱の税金になる。ZFMはある意味、ブラジルの高税率から「保護」された地域と捉えることもできる。

今後、ブラジルがEUなど中南米域外との通商協定を積極的に締結するようになれば、少なくともIIの税率については引き下げられ、ZFMの相対的な優位性が減じる可能性もある。なお、ZFMからの輸出額に関しては、現状の売上高全体に占める割合が1.9%(2017年1~11月)と低く、立地企業のほとんどはブラジル国内市場向けの拠点として位置付けていることが分かる。南米南部共同市場(メルコスール)では、ZFM製品はアルゼンチンとウルグアイ向けに関して、ブラジルとの個別協定により域内製品扱いとなっている(注4)。テーメル政権以降、南米域外との通商協定に積極的な動きがみられるが、それらの交渉が中長期的にZFMへどのような影響を与えるかにも、注意を払う必要がある。

(注1)法人所得税(IRPJ)の恩典はアマゾニア開発庁(SUDAM)が認めるもので、フリーゾーンの恩典とは異なる。2018年12月31日までに認可されたプロジェクトは、75%の減税措置を10年間享受できる。

(注2)ZFMの税恩典の詳細はジェトロウェブサイトを参照。

(注3)連邦税に関しては連邦収税局のサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで試算。ICMについては、サンパウロ州での一般的な税率は18%。

(注4)ブラジルとウルグアイは経済補完協定(ACE)第2号の第72追加議定書で品目を定めており、第78追加議定書で2018年12月までの適用をうたっている。

(二宮康史)

(ブラジル)

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