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先進国やアジア諸国とのFTA網構築を急ぐ-中南米主要国の通商政策と地域統合をめぐる動き-

(ブラジル)

サンパウロ発、米州課

2018年02月08日

ブラジルは、自由貿易協定(FTA)締結でメキシコやチリなど域内主要国に後れを取ってきた。メルコスール(南米南部共同市場)に加盟しているが、関税率の引き下げを伴うような通商協定はブロックとして締結しなければならないことに加え、2016年半ばまでの労働者党政権がFTAに消極的だったことも理由に挙げられるが、その後、通商政策を転換し、メルコスールとEUとのFTA交渉や中南米、アジア諸国との既存の通商協定の拡大・深化に積極的に取り組んでいる。

少ない域外の国・地域とのFTA

ブラジル商工サービス省のウェブサイトによると、過去に単独で締結した経済補完協定(ACE)やメルコスールとして結んだ特恵貿易協定は20程度ある(表参照)。

表 ブラジルが締結した通商協定
協定名 発効(官報掲載年)
ブラジル・ウルグアイ(ACE2) 1983年
ブラジル・アルゼンチン(ACE14) 1991年
メルコスール(ACE18) 1992年
メルコスール・チリ(ACE35) 1996年
メルコスール・ボリビア(ACE36) 1997年
ブラジル・メキシコ(ACE53) 2002年
メルコスール・メキシコ(ACE54) 2003年
ブラジル・スリナム部分到達協定(ACE41) 2005年
メルコスール・ペルー(ACE58) 2005年
メルコスール・CAN(ACE59) 2005年
メルコスール・キューバ(ACE62) 2007年
ブラジル・ベネズエラ(ACE69) 2014年
メルコスール・コロンビア(ACE72) 2017年
ブラジル・メキシコ自動車協定(ACE55付属書Ⅱ) 2002年
インド・メルコスール特恵貿易協定 2009年
イスラエル・メルコスールFTA 2010年
SACU・メルコスール特恵貿易協定 2016年
エジプト・メルコスールFTA 2017年
パレスチナ・メルコスールFTA 未発効
ブラジル・ペルー経済貿易拡大協定 未発効

(出所)商工サービス省ウェブサイト

ほとんどはラテンアメリカ統合連合(ALADI)の枠内の経済補完協定で、自由化の水準がFTAに比べて低い通商協定だ。域外の国・地域で発効しているのは、インド(特恵貿易協定)、イスラエル(FTA)、南部アフリカ関税同盟(SACU、特恵貿易協定)、エジプト(FTA)などにすぎない。この背景には、メルコスールが2001年6月30日以降、加盟国が新たな域外との通商協定を交渉する場合は、個別の国としてではなくブロックとして締結しなければならなくなった(審議会決議32号)ことがある。また、2003年以降の労働者党政権が、開発途上国同士の連帯強化を通じて先進国外交を有利に進めようという姿勢にシフトしたことももう1つの要因として挙げられる。そのため、FTAやラテンアメリカ域内の経済補完協定締結国との貿易額のシェアは、2016年時点で全体の2割程度にとどまっている。9割を超えるチリなど太平洋同盟諸国と比べるとその低さが分かる。

景気の低迷が通商政策の転換迫る

2015年、2016年と続いた景気の低迷はブラジルに通商政策の転換を迫った。財政支出を伴わずに景気低迷から脱するため、そして産業界の不満を解消するための施策として、通商協定の拡大・深化は数少ない景気浮揚策の1つと認識された。2015年に始まった第2次ジルマ・ルセフ政権は6月に発表した輸出振興策の中に通商協定を通じた市場アクセスの確保を盛り込んだ。ルセフ大統領が2016年8月に罷免された後もミシェル・テーメル現政権がこの方針を引き継ぐかたちで通商協定の拡大・深化に取り組んでいる。

現時点でブラジルがメルコスールを通じた通商交渉の最優先に位置付けているのがEUとのFTA交渉だ。交渉は2000年に開始されたものの、その後発足した急進左派のルーラ政権による通商交渉方針の変更により2004年に中断、2010年に再開されるも2012年に再び中断するという状況に陥っていた。2016年10月にあらためて交渉が開始され、2017年12月までに通算31回の会合が行われている。

メルコスール側としては2017年12月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたWTO閣僚会合時の大筋合意を目指したものの、争点となっていた農産物などで交渉が折り合わず、2018年に先延ばしされることとなった。大筋合意に至らなかった項目としてはメルコスールからEU向けの農産品およびエタノールの割当枠がある。最終的にWTO閣僚会合時はEU側が無関税枠を牛肉7万トンのみ、エタノールについては60万トンのみとしたことでメルコスール側を失望させ、合意は見送られた。なお、12月にテーメル大統領は、カナダおよび韓国との通商交渉を開始する準備が整ったことやシンガポールとのFTA締結に向けた事前協議を開始すると述べている(2018年1月11日記事参照)。

ラテンアメリカ諸国との協定の拡大・深化も重視

ブラジルの通商政策のもう1つの柱は、ラテンアメリカ域内諸国との通商協定の拡大・深化だ。最近の例では2017年12月にコロンビアとブラジル、アルゼンチンの間で経済補完協定72号が発効したことが挙げられる(2018年1月12日記事参照)。これは経済補完協定59号(2005年に発効したアンデス共同体のエクアドル、コロンビア、ベネズエラ3カ国とメルコスール4カ国との間で締結)を刷新したもので、発効に当たり自動車分野についての交渉も行われ、原産地規則を満たした3.5トン以下の車両について2018年2万5,000台、2019年以降5万台の無関税枠が設置された。また、2016年4月に締結したペルーとの経済補完協定の拡大協定は未発効ながら、政府調達についての条項が初めて盛り込まれるなどブラジルとしては野心的なものだった。

そのほか、メキシコとの経済補完協定53号の拡大・深化に向けた交渉も続いている。2015年5月、ルセフ大統領(当時)のメキシコ公式訪問に伴い、対象品目の拡大と新たな分野を加えるための協議を開始し、2017年8月に行われた第7回交渉会合では、知的財産の分野において、商標、地理的表示(産品の情報を知的財産として登録し保護すること)、著作権、知的財産の行使について協議が開始された。米トランプ政権と北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉が行われるなど、メキシコの通商面での環境は大きく変化しているが、このこともメキシコがブラジルとの通商協定の拡大・深化に向けて積極的な姿勢を見せている理由の1つといえる。

(辻本希世、竹下幸治郎)

(ブラジル)

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