経済特区、2カ所が新たに指定され5カ所に-オアハカ州サリナクルスとユカタン州プログレソ-

(メキシコ)

メキシコ発

2018年01月09日

政府は12月19日、オアハカ州サリナクルス地区とユカタン州プログレソ地区を経済特区に指定する政令を発表した。9月に指定された3カ所を含め経済特区は5カ所になった。プログレソ地区については研究開発投資を増やすのが目的で、投資インセンティブも他の特区とは異なる。

大統領は経済特区への投資に期待

政府は2017年から、自動車産業など工業化が進展している北部と、農業や観光業が主な産業となっている南部の所得格差を是正するため、法人税の減免など投資インセンティブを設けた経済特区を導入した。第1弾として9月には(1)ミチョアカン州ラサロカルデナス市からゲレロ州ラ・ウニオン市にまたがる太平洋州のラサロカルデナス港地区、(2)メキシコ湾岸のベラクルス州コアツァコアルコス港一帯、(3)南東部のチアパス州プエルト・チアパス(通称、自治体の名称はタパチュラ市)を経済特区に指定していた(2017年11月13日記事参照)。

今回の政令で、オアハカ州のサリナクルス地区、ユカタン州のプログレソ地区が加わり、合計5カ所が経済特区に指定された。エンリケ・ペニャ・ニエト大統領は「今後15年間において経済特区全体で360億ドルの投資を呼び込むことができるだろう」と期待を寄せた(「エル・フィナンシエロ」紙12月19日)。

プログレソのインセンティブは投資の早期回収に主眼

どちらの特区も、法人税法第II編第IV章に規定された金融機関(保険会社などを含む)には税制の恩典がないほか、石油精製や石油精製品の貯蔵・輸送・販売事業を特区外の顧客向けに行うことはできない。

インセンティブの内容は、サリナクルス地区では、恒久的施設(PE)の設立後10年間の法人税免除とその後5年間の半減など9月に指定された3地域と同様の恩典(2017年11月13日記事参照)、また、プログレソ地区については主に以下の恩典が与えられる。

○操業開始後の8年間、研究開発施設など特区内での固定資産への新規投資にかかる減価償却を即時償却(注)とするか、法人税法第34~35条に基づく通常の償却とするかを選択できる。

○操業開始後8年間、研究開発投資額の30%相当額を法人税額から控除できる。

○特区内での財・サービスの販売、あるいは特区外からの財・サービスの販売について、付加価値税(IVA)が免除される(特区内から特区外に財を販売する際はIVAが課税)。

○操業開始後8年間、従業員の研修にかかる費用の150%までを損金算入できる(通常の50%増)。

○特区内への財の輸入に関して関税が免除される(一時輸入扱い、ただし部品・原材料について輸入後60カ月を超えて滞留させる場合は課税対象)。

メキシコの所得税法では、減価償却費を資産の種類に応じて初期投資額の一定の比率まで損金算入することが定められている。例えば、建屋については毎年5%まで20年で償却、機械設備については種類に応じて毎年5~50%までで2~20年間で償却、コンピュータおよび周辺機器では毎年30%までで4年間で償却となる。プログレソ特区では建屋が57%まで、機械設備が種類に応じて57~92%、コンピュータ関連が88%まで即時償却できるため、投資を実施した年(あるいは翌年、どちらかを選択可能)の課税所得が減少し、操業開始時の税負担を軽減できる。

また、研究開発投資額の30%に相当する税額控除も適用できるため、研究開発を主体とする事業であれば少なくとも操業後8年間は減税効果がある。なお、税額控除分が所得税額を上回る場合は、差額をその後10年間にわたって所得税額から控除することができる。この税額控除制度は、研究開発投資の増加分30%を税額控除できる既存の制度(2017年4月17日記事参照)と併用することもできる。加えてプログレソ地区では、従業員の研修にかかる費用の損金算入も50%増となっており、その他の地域(25%増)より優遇されている。

プログレソ地区のいずれのインセンティブも企業側が初期投資を早く回収することに主眼が置かれており、研究開発投資で後れを取るメキシコが経済特区という枠組みの中で、南北の経済格差解消に加え研究開発も振興させようという狙いがあるようだ。プログレソ地区のあるユカタン州は科学技術の振興に力を入れており、ユカタン科学技術工業団地(PCTY、2008年開所)やプログレソ工科大学(ITSP)情報技術センター(2016年開所)などがある。ユカタン州は、ミチョアカン州、ゲレロ州、オアハカ州、チアパス州など他の南部諸州と比べれば開発が進んでおり、法人所得税を操業後15年間減免する恩典は導入されなかった。

(注)政令第21条は、固定資産の種類に応じて即時償却できる上限(初期投資額の何%まで)を定めており、それを超える部分については原則として償却処理できない。ただし、固定資産を8年以内に売却したり、紛失したり、利用できなくなった場合に限り、未償却分について政令第22条IIIの表に規定された一定比率の償却処理が可能。

(岩田理)

(メキシコ)

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