研究開発投資の増加分の30%を税額控除-中南米の制度改定動向-

(メキシコ)

米州課

2017年04月17日

 ホセ・アントニオ・ミード大蔵公債相は4月4日、研究開発(R&D)投資を増加させた企業に対する税額控除プログラム(EFIDT)の公募を開始したと発表した。2017年は375件の投資計画を支援することにより、合計で約50億ペソ(約295億円、1ペソ=約5.9円)のR&D投資を呼び込む目標だ。同プログラムを適用するためには、国家科学技術審議会(CONACYT)のウェブサイトを通じて5月31日までに計画を提出し、承認を受ける必要がある。

R&D投資総額のGDP比1.0%を目指す

R&D投資に関する税額控除は、2016年末の税制改革で所得税法の改正として導入された。所得税法第202条に基づき、過去3年間のR&D投資の平均額を上回る投資を行った場合には、その増加分の30%を当該年の法人所得税から税額控除することが可能となる。ただし、同条は税額控除を通じた国庫の負担総額を年間15億ペソまでと定めているため、各企業が税額控除の適用を受けるには、あらかじめCONACYT、経済省、大統領府、国税庁(SAT)、大蔵公債省の代表からなる多省庁委員会により投資計画が承認されていなければならない。投資計画の承認はCONACYTを通じた公募のかたちで行われ、2017年は4月1日~5月31日の期間で公募を受け付ける。

CONACYTはEFIDTのほか、「革新奨励プログラム(PEI)」と呼ばれる企業のR&D投資計画に補助金を支給するプログラムも毎年実施している。CONACYTのカブレロ・メンドーサ総裁によると、PEIの2017年の補助金総額は約20億ペソで、民間企業が負担する投資額を合わせると40億~45億ペソのR&D投資を呼び込むとしている。EFIDTとPEIを合計すると約90億ペソのR&D投資を促進することとなり、2017年は過去最高のR&D投資額を実現するとしている(CONACYTプレスリリース4月5日付)。

政府がR&D投資を促進する背景には、現状のR&D投資額が他国と比べるとかなり低水準なことがある。メキシコは外資系企業にとって、米国市場などを視野に入れた輸出製造拠点として発展してきたが、メキシコ国内で研究開発を実施する企業は少ない。ミード大蔵公債相によると、メキシコにおけるR&D投資額のGDP比は2012年の0.43%から2016年には0.6%に上昇しており、政府としては1.0%まで引き上げることを目標としているが、それでもOECD加盟国の平均値(2.4%)には程遠い(主要各紙4月5日)。メキシコが単なる低コスト製造拠点としての位置付けから、より付加価値や生産性の高い製造拠点への飛躍を遂げるためには、R&D投資の拡大が求められている。

R&D投資を増加させることが最大の要件に

EFIDTによる税額控除の適用を受けるには、幾つかの条件がある。最も大きな要件としては、単にR&D投資を行うだけでなく、以前よりも増額しなければならないということだ。所得税法第202条および2月28日付官報で公示され「EFIDT適用のための一般規則(以下、一般規則)」によると、税額控除額は過去3年間のR&D投資額の平均と比べて、当該年のR&D投資額が増加した分に0.3を乗じた額だ。従って、投資をこれまでよりも増やさないと控除は得られない。

また、R&Dに関連する経費であっても、税額控除の対象となる投資や経費に制限があるため、注意が必要だ。例えば研究開発に要する人件費についても、外部の研究者に対する報酬は対象経費となるが、自社の研究スタッフに対する給与は対象経費にならない(表参照)。

EFIDTによる税額控除の対象と認められる経費と認められない経費
対象 外部研究者に対する報酬
実験・試作
フィールドワーク
試作・実験用工具・ツール
専門技術研修(必要不可欠なもの)
専門器具の購入
外部専門サービスに対する支払い
実験・検査器具の購入・設置
専用機械設備の購入
実験用動植物の購入
専用器具のレンタル費用
試作品用の材料購入費
実験用の試薬や素材購入費
連携高等教育・研究機関への支払い
パイロットプラント関連経費
CONACYTの国立研究所のサービス対価
対象外 社員への給与
建設工事(パイロットプラントを除く)
光熱費・通信費・事務用品費(パイロットプラント用を除く)
一般的な商業生産に関する費用
機械のメンテナンス費用
広告費
許認可取得費用
輸送費
債務返済・保険費用
金利
外貨売買に関する費用
金融機関による金融サービス対価
租税公課
罰金・延滞金利
他の公的支援や補助金の対象となった経費
案件形成や申請に関する外部コンサルタントへの報酬

(出所)EFIDT適用に関する一般規則の別添(2017年2月28日付官報公示)

税額控除の上限額は、1企業当たり5,000万ペソだ(同範囲内であれば、複数の投資計画で税額控除を申請することが可能)。承認された税額控除額が当該年の法人所得税の納税額よりも大きい場合、控除し切れなかった残額をその後10年間にわたって発生する法人所得税から控除することができる(所得税法第202条)。

CONACYTのウェブサイト経由で5月31日までに申請

メキシコにおいてR&D投資を実施し、税額控除の適用を申請する企業は、CONACYTのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを通じて5月31日まで(2018年以降は3月1日~4月30日)に申請を行い、さまざまな必要書類をPDF形式でアップロードする必要がある。必要書類の詳細についても、CONACYTのウェブサイトで確認できる。申請内容に関してCONACYTの評価委員会が技術評価を実施した後、多省庁委員会が最終的な承認と控除可能額の決定を行う。評価委員会の技術評価は申請受理期限から45営業日以内に行われ(一般規則第14号)、最終的に多省庁委員会が承認を行う期限は申請受理期限から3ヵ月以内となっている(一般規則第23号)。評価・承認プロセスの詳細については、CONACYTのウェブサイトから指針PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)をダウンロードできる。

案件評価では、以下の要素が優先して評価される(数字は優先順位)。

  1. 複数年に及ぶR&Dプロジェクト
  2. 特許や実用新案など産業財産権を公に創出する内容
  3. 試作品などの要素成果物を開発するプロジェクト
  4. 高等教育機関や公営研究機関と組んだ産学連携プロジェクト(研究開発費の20%以上が同連携機関を通じた支出であることが条件)
  5. 生産性向上に資する、あるいは質や報酬の水準が高い雇用を生み出すプロジェクト
  6. 高い利益率や効率性、多くの雇用、大きな経済効果を生み出す大きな戦略、あるいは地域開発戦略の一環であるプロジェクト

申請が承認されて税額控除が認められた企業は、税額控除を適用する対象年の翌年1月(注)に当該R&Dプロジェクトの成果・進捗についてCONACYTへ報告する必要がある。さらに翌2月には、税額控除の対象となった経費が申請時に約束したとおりの目的で支出されたことを証明する公認会計士の報告書を、SATに対して提出する必要がある(所得税法202条および一般規則24号)。

(注)2017年の法人所得税に税額控除を適用するのであれば、同年の法人所得税についての確定申告期限である2018年3月末に先立ち、2018年1月にCONACYTに報告する必要がある。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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