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NAFTA再交渉が最大の課題-中南米主要国の通商政策と地域統合をめぐる動き-

(メキシコ)

メキシコ発

2018年01月31日

メキシコは1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)を発効させて以降、46カ国とFTAを締結し、近年はアジア太平洋地域に狙いを定めて通商政策を展開してきたが、2017年に入りNAFTA再交渉が勃発し、メキシコの通商政策上では最優先事項となっている。通商政策と地域統合をめぐる動きについてのメキシコ編の前編。

FTA大国のきっかけはNAFTA

2017年10月末現在で、メキシコが締結したFTAは12協定46カ国となっている(表参照)。これらの協定がメキシコの貿易に占める割合は、輸出で95.1%、輸入で67.3%、往復で84.2%(いずれも2016年の貿易額に基づく)に及び、FTA先進国としての道を歩んできた。

表 メキシコのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
状況 FTA 発効日 メキシコの貿易に占める構成比(2016年)
往復 輸出 輸入
発効済み 北米自由貿易協定(NAFTA) 1994年4月1日 66.0 83.7 48.9
メキシコ-コロンビアFTA(旧G3FTA) 1995年1月1日 1.0 0.8 0.3
メキシコ-チリFTA 1999年8月1日 0.4 0.5 0.4
メキシコ-イスラエルFTA 2000年7月1日 0.1 0.1 0.2
メキシコ-EU(28カ国)FTA 2000年7月1日 8.1 5.2 11.0
メキシコ-EFTA(4カ国)FTA 2001年7月1日 0.3 0.2 0.5
メキシコ-ウルグアイFTA 2004年7月15日 0.1 0.0 0.1
日本メキシコ経済連携協定 2005年4月1日 5.6 1.0 4.6
メキシコ-ペルー通商統合協定 2012年2月1日 0.3 0.4 0.1
メキシコ-中米単一FTA(5カ国) 2013年9月1日 0.9 1.3 0.5
メキシコ-パナマFTA 2015年7月1日 0.1 0.2 0.0
太平洋同盟(チリ、ペルー、コロンビア) 2015年7月20日 1.2 1.7 0.8
合計12協定(46カ国) 84.2 95.1 67.3
交渉中 メキシコ-ブラジル経済統合戦略協定 1.0 0.8 1.2
メキシコ-韓国経済補完戦略協定(凍結中) 2.1 0.7 3.5
包括的かつ先進的TPP(CPTPP)
(米国、カナダ、チリ、ペルー、日本は除く)
2.3 0.9 3.7

(注)中米単一FTAはグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、コスタリカ、ニカラグア、CPTPPは米国、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、オーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナム、カナダ、日本が相手国だが、貿易に占める構成比はFTA締結済みの5カ国を除く。
(出所)経済省ウェブサイト、INEGI貿易統計など

メキシコの場合、最初のFTAが1994年のNAFTAだ。当時、先進国と開発途上国の間のFTAというハードルの高い交渉を行った背景には、主に米国からの直接投資の促進と産業競争力の強化、雇用の拡大などの狙いがあったとされる。最初からメキシコの貿易・投資にとっての「本丸」米国と交渉し、成功させたメキシコは、やがてEUや中南米諸国をはじめ、その他の国々と次々とFTAを締結していった。NAFTA発効以降のメキシコの自由貿易主義に基づく通商政策は、政権が代わっても基本的に後戻りすることなく進んできた。

近年の動向としては、アジア太平洋地域の経済統合深化を狙った通商政策の展開が重視されてきた。具体的には、中南米太平洋岸でアジア太平洋へのリンクを模索する自由貿易主義諸国のチリ、コロンビア、ペルー、メキシコによる太平洋同盟、ならびに環太平洋パートナーシップ〔TPP(その後CPTPP:包括的かつ先進的TPP)〕交渉への参加だった。

難航するNAFTAの再交渉

しかし、米国にトランプ大統領が誕生(2017年)すると、同大統領はNAFTAの離脱ないしは再交渉を主張。メキシコ政府は2017年、TPP11(米国を除いた11カ国のTPP)や対EU、ブラジル、アルゼンチンなどとの交渉も並行して続けているものの、NAFTAの再交渉に最も神経をすり減らすこととなった。

NAFTA再交渉はこれまで6回にわたって開催されている〔第1回:8月16~20日、ワシントン、第2回:9月1~5日、メキシコ市、第3回:9月23~27日、オタワ、第4回:10月11~17日、ワシントンおよびアーリントン(バージニア州)、第5回:11月15~17日(事前会合)、17~21日(本会合)、メキシコ市、非公式事務レベル会合:12月9~15日、ワシントン、第6回:1月23~29日、モントリオール〕。

第3回会合までは比較的対立の少ない分野の交渉が中心で、米国からも具体的な提案がされていなかった。しかし、第4回会合では在メキシコ日系企業も懸念している自動車の原産地規則を含め、あらゆるテーマで米国側が具体的な提案を行ったもようだ。このため、交渉国が提案内容を評価する期間を設けるとして、第5回会合を当初予定より延期して実施。交渉国は、メキシコの大統領選挙(2018年7月)や米国の中間選挙(2018年11月)に関する動きが活発化すれば合意が難しくなるとして、2017年中の合意を目指してきたが、これを断念し、2018年第1四半期まで交渉を継続することを決定した。

非現実的な米国の原産地規則提案

第4回会合では、自動車の原産地規則分野で、米国側が乗用車と軽トラックに適用されている現行62.5%の域内原産割合(RVC)を85%まで引き上げ、うち50%は米国産とすること、また鉄鋼、アルミ、レジンなどの原材料をはじめ全ての自動車部品をトレーシングリスト(注)に追加することを求めているとしている。

これらの提案が米国自動車業界などの要望を踏まえた上での実務的な提案であるかは疑わしく、政治的パフォーマンスである点は否めない。メキシコ政府も到底受け入れられないとして、即座に拒否している。

ただし、あえて米国側が求めた条件を前提に、今後の対米輸出を検討するとすれば、メキシコ企業の対応としては「NAFTAを使わないで輸出する」ということにならざるを得ないだろう。現在、米国の最恵国待遇(MFN)税率は乗用車に対しては2.5%と相対的に高くない。従って法外なRVCを満たすためにサプライチェーンの強化に走るよりも、域外からの部品輸入も含めてトータルにコストを計算して調達の最適化を図った上で、米国のMFN関税を覚悟して米国に輸出するという方法に、より経済性があると指摘する関係者は多い。NAFTAを使わなければ、NAFTAの原産性を証明するためのペーパーワークも大幅に軽減される。

メキシコの自動車メーカーが輸出しているのは米国だけではないため、EU向けや経済補完協定ACE55号に基づくブラジル、アルゼンチン向けの輸出で特恵関税を享受するために現地調達率を高めるインセンティブは依然として働くものの、それ以上に難易度の高い提案となるNAFTAの原産地規則を満たすための現地調達努力にはメリットを感じないだろう。

ただし、ピックアップトラックについては米国のMFN関税は25.0%となっており、メキシコにおける生産車種の検討を含め業界再編が行われる可能性は否定できない。

熱延鋼板をトレーシングに含めるかが焦点

米国政府の提案がまだ産業界や議会との調整が済んだ上での提案でないとすれば、今後現実的な議論の下、各国が受け入れ可能な原産地規則に収斂(しゅうれん)していくことが想定される。その時にポイントの1つになるのは、「鉄鋼をトレーシングに含めるか否か」だ(詳細は2017年7月18日記事参照)。

これまでNAFTA向け完成車の原産地規則では、トレーシング対象品目に入っていない鉄鋼を、非原産材料としてカウントする必要はなかった(計算上は「原産」扱い)。しかし、今後の議論でトレーシング対象にすることになれば、NAFTA域外からの鉄鋼輸入を全て非原産材料価額に計上することになる。しかも、完成車メーカーが直接輸入したか否かにかかわらず、輸入時点にさかのぼって(トレースして)行う必要がある。

現在は冷延鋼板や亜鉛メッキ鋼板がメキシコでも生産されているが、原料となる熱延鋼板は日本や韓国などから輸入されている。このため、熱延鋼板がトレーシング対象に追加された場合、メキシコで製造される冷延鋼板や亜鉛メッキ鋼板であっても、原料の熱延鋼板をNAFTA域外から輸入していれば、最終的な鋼板の輸入調達価格に含まれる熱延鋼板の価格については非原産材料価額に計上しなければならなくなる。幾つかの外資系企業は、メキシコ内で熱延鋼板の製造も行う投資を予定と発表したが、自動車に使用できる質、量、そして価格が担保できるかなど不透明感が強い。

カナダが求める「労働」への対応も必要に

NAFTA再交渉が在メキシコ日系企業に与える影響という観点で、原産地規則以外にもう1つ言及するとすれば、「労働」がある。

カナダが考える交渉項目の中で、「労働基準の強化について、ILO条約のうち8本の批准を加盟国に要求」している。これは労働組合関係(第87号、第98号)、強制労働関係(第29号、第105号)、差別禁止関係(第100号、第111号)、児童労働関係(第138号、第182号)を指し、このうちメキシコは、第98号「団結権および団体交渉権条約」を批准していない。

ただし、これに関してはNAFTA再交渉での議論だけでなく、TPPにおいてもメキシコは関連の条文に合意しており、中身は次のとおりだ。

  • 各締約国は、自国の法律および規則および当該法律および規則に基づく慣行において、ILO宣言に述べられている権利を採用し、および維持する。ILO宣言には、「結社の自由および団体交渉権の実効的な承認」がうたわれており、その影響としては、メキシコ連邦労働法のうち、以下の労働組合関係の条文を廃止する動きにつながることがある。
  • 第395条:労働協約には、使用者が当該労働協約を締結した労働組合に加入する労働者を独占的に受け入れるとする条項を設けることができる(通称「排斥条項」)。
  • 第923条:920条の要件を満たさない場合(事前通知など)、または労働調停・仲裁委員会に届けられた労働協約とは別の労働協約の締結を目的として、既にある労働協約の当事者ではない別の労働組合が招集するストライキは、正当な手続きとして受理されない(新たな労働協約の制限)。

これまで、過激な外部の労働組合の干渉を防ぐため、経営側のイニシアチブで自社の労働者に労働組合を結成させるか、自社の労働者を外部の穏健な労働組合に加入させ、同労働組合と労働協約を締結しておくやり方が一般的だった(通称「保護協約」)。これは、前述の第923条により、既に組合が存在し労働協約を締結している会社に対しては、他の組合が労働協約締結を目的に会社に対してスト予告を行っても、正当なストとして受理されないと規定されているからだ。

NAFTA再交渉により、これら条文を廃止することになれば、在メキシコ日系企業は労務管理、特に労働組合との関係を良好に保つ新たな対処を迫られることになりかねない。

(注)NAFTAの完成車(大型バス・トラックを除く)におけるRVCの算定においては、「トレーシングルール」と呼ばれる特別なルールが用いられている。トレーシングルールの下では、定められた関税番号リスト(Annex403.1)に該当する部品(トレーシング対象部品)が域外から輸入されている場合にのみ、当該部品の輸入時点までさかのぼって「非原産材料価額」に含めることが求められる。Annex403.1に該当しない部品については、たとえ域外から輸入したとしても「非原産材料」扱いにはならない。

(中島伸浩)

(メキシコ)

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