英国のEU離脱撤回に期待感示す-欧州理事会のトゥスク常任議長が欧州議会で-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2018年01月18日

欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長は1月16日、欧州議会本会議で12月の理事会報告を行い、英国のEU離脱(ブレグジット)交渉の第2段階を進める方針を明らかにした上で、「英国政府が離脱の決定を貫けば、2019年3月にブレグジットはネガティブな結果とともに現実となる」とも述べ、英国の翻意に期待感を示した。他方、欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は1月9日のブリュッセルでの演説で、ブレグジット問題について英国の要望を実現するには、EUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)のような自由貿易協定を締結することになると述べた。

英国政府に明確なビジョンの開示求める

欧州理事会のトゥスク常任議長は1月16日、欧州議会本会議(ストラスブール)で、2017年12月14~15日に開催された欧州理事会の報告(2017年12月18日記事参照)を行い、EU首脳が英国のEU離脱(ブレグジット)問題について交渉第1段階の「十分な進捗」を認め、EU・英国の将来関係を含む第2段階に向けたガイドラインを採択したと述べた。また、将来関係をめぐる英国政府の交渉姿勢については「明確なビジョンを示すべき」と注文を付けた。EU側としては、英国政府としての具体的なビジョンの共有がなければ、(EU域外の)第三国としての英国との通商協議を含む将来関係についての交渉に着手できないというスタンスだ。

トゥスク常任議長によると、ブレグジットをめぐる「最も困難な作業はこれからで、残された時間も限られる」状況だという。ただ、今回の発言で同議長は「われわれの英国の友人の間に心変わりがなく、英国政府がEU離脱の決定を貫けば、2019年3月にブレグジットはネガティブな結果とともに現実となる」と指摘、英国側の翻意(EU離脱撤回)に期待感を示した。また、同議長は「『変節を認めない民主主義は民主主義ではない』と言ったのは英国のデービッド・デービスEU離脱相自身ではなかったか。われわれ(EU側)の心は今でもオープンだ」とも語った。こうした発言は、最近の英国での「ハードブレグジット」に対する警戒感を背景にした、「EU残留論」再燃などの動きを念頭に置いたものと考えられる。

移行期間は2020年1月までの「21カ月」を想定

他方、欧州委員会のバルニエ首席交渉官は1月9日の演説で、ブレグジット問題についての現状認識を明らかにした。英国が、EU域内で認められている人の自由移動を拒否し、EU単一市場の前提を受け入れないにもかかわらず、EUへの市場アクセスを求めるとするならば、EUがカナダと締結した包括的経済貿易協定(CETA)のような形式の自由貿易協定を締結するしかないとの認識を示した。

しかし、バルニエ首席交渉官は「野心的な自由貿易協定だったとしても、単一市場や関税同盟が保障する全ての利益が得られるわけではない」と指摘。金融サービスなど分野によっては、自由貿易協定に定められる規制協力などを通じて定期的な政策調整を行う必要があると述べた。EUは欧州債務危機の教訓もあり、金融市場の安定、投資家の保護、市場統合、競争条件の平準化などを保障する厳格なルールを確立してきた。このため、このような厳格な法的枠組みから離脱した場合は、それまでのような市場アクセスを失うことになるとの自身の認識を示したものだ。

バルニエ首席交渉官は「今後の数カ月で、どのような野心的な自由貿易協定について協議できるのか、英国の提案を待っている」と語ったが、EU側が想定する英国との将来関係は通商関係にとどまらず、外交・安全保障、法務、航空や漁業など広範な課題についての協議が必要だ。これらの分野については、産業・企業や行政機関の準備を必要とするものもあり、英国側から相応の移行期間が求められているとも指摘した。その具体的な期間として、欧州委はEU加盟国に対して、英国がEUを離脱する2019年3月29日から2020年12月31日までの21カ月を提案していることを明らかにした。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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