欧州理事会、ブレグジット交渉第2段階移行のガイドライン採択-欧州産業界は広がる不透明感に懸念-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年12月18日

欧州理事会(EU首脳会議)は12月15日、英国のEU離脱(ブレグジット)問題をめぐる交渉第1段階の「十分な進捗」を歓迎し、第2段階に移行するためのガイドラインを採択した。この結果、EU・英国間の自由貿易協定(FTA)などの通商に関する事前協議や移行措置を含む交渉の第2段階に移行する。移行期間については、英国の要望の「2年程度」が認められる見通しだ。2018年3月の欧州理事会で、英国との将来関係を含む追加交渉ガイドラインをEUとして採択する予定だ。ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は「今後数カ月の交渉が正念場」との見方を示し、欧州産業界に広がる不透明感を迅速に払拭(ふっしょく)するよう求めている。

状況によって今後の交渉打ち切りの可能性も示唆

欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長は12月15日、欧州理事会を終えて記者会見に臨み、ブレグジットをめぐる交渉第1段階の「十分な進捗」を認め、第2段階に移行すると発表した。この結果、EU・英国FTAなど将来関係に関する事前協議や(FTAが発効するまでの混乱を回避するための)移行措置を含む交渉第2段階に移行する。

欧州理事会としての発表は、「離脱協定」の起草準備を開始するとし、同時に交渉第1段階の全ての合意事項を忠実かつ迅速に法的拘束力を持たせるかたちで反映することになると指摘した。今後の協議で、(1)双方市民の権利保障、(2)財政問題の解決(清算)、(3)アイルランドと北アイルランドの国境問題の解決といったEU側の優先課題をどのように「離脱協定」に織り込むかをEU側は注視する姿勢で、こうしたEU側の優先課題についての英国の交渉姿勢次第では交渉打ち切りもあり得ることを示唆している。今回の声明は「交渉第2段階の進展は、交渉第1段階での合意事項の法制化への対応次第」である点を強調している。

移行期間中、英国はEUとの権利・義務関係で特殊な立場に

また、今後着手する移行措置(期間)について、「2年程度」とする英国の要請には配慮することを認め、EU理事会としては2018年1月中に移行期間に関する交渉指令(欧州委への交渉権限付与)を追加で採択する方針だ。

しかし、この移行期間は、英国は経済的には現状を維持できるが、政治的には第三国となり、EUの政策など(諸機関の人事なども含む)に対して一切関与できないにもかかわらず、EU法令の完全な準拠を求められることになるとした。英国は移行期間中、EU単一市場へのアクセスはこれまでどおり認められ、通関措置や関税の適用は回避できるが、EUが新たに採択した法令も順守しなければならないことになる。また、EUが決めた通商政策や国境措置などを受け入れ、EU司法裁判所(CJEU)の管轄権にも服するほか、EU予算について応分の財政負担も担わなければならない。つまり、英国は経済的な便益は得られるものの、政治的な権利(影響力)は失い、義務についてはこれまでどおり全ての履行を求められるという「特異な立場」に置かれることになる。

欧州議会は欧州理事会に先立ち、12月14日付で交渉第1段階の「十分な進捗」を認める決議を行っているが、同議会のアントニオ・タヤーニ議長は「『十分な進捗』が認定されたことで、全ての問題が解決したことにはならない」と、今後のブレグジットをめぐる英国の対応を注視する姿勢を明確に示した。特にアイルランドと北アイルランドの国境問題について同議長は、厳格な国境管理で、これまで密接な関係をもってきた地域住民に混乱を招かないよう、特例措置を講ずるなど注意を促したが、同時に、この特例措置が(移行期間終了後)英国産品のEU市場への流入の迂回路にならないよう対応を求めた。

2018年3月の欧州理事会で追加の交渉ガイドライン採択へ

このほか、今回の発表は「将来関係に関する合意」(通商協定)の妥結が英国のEU離脱以降になるとの見解をあらためて示した。EUとしては、テロ・国際犯罪対策、外交・安全保障問題など、通商・経済関係とは関係のない分野では直ちに英国との連携協議に入る用意があるとしているが、EU・英国関係で最も関心がもたれている通商・経済についての妥結は、全体の利害のバランスを調整し、第三国としての英国との関係の在り方が確定してからになるとの認識だ。

EUとしては2018年3月の欧州理事会で、英国との将来関係を含む、追加の交渉ガイドラインを採択する予定だ。このため、交渉第2段階の本格化もそれ以降となる。

産業界は「今後数カ月の交渉」が正念場と警鐘

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)のエマ・マルチェガリア会長は12月15日付の発表で、「今回の(EU首脳会議)の決定は良い方向への前進だが、着地点には程遠い。産業界には(投資など)将来を見据えた展望が必要で、そのための時間的な余裕はほとんどない。われわれとしては交渉第2段階に向けた双方交渉担当者の奮闘に期待するばかりだ」とコメントした。欧州産業界としては、これまでのEU・英国間のビジネス環境の維持・継続が望ましく、2019年3月の英国のEU離脱以降の2年間が想定されている移行期間以降に、FTAが発効しないなどビジネス環境の混乱は避けたいところだ。ビジネスヨーロッパは「そのような事態に陥れば、経済的に深刻な問題は不可避で、英国、EU27カ国の双方での企業のビジネス活動に悪影響をもたらす」「今後数カ月の交渉や決定に全てがかかっている」と警鐘を鳴らした。

また、欧州の主要エレクトロニクス産業を代表するデジタルヨーロッパのセシリア・ボネフェルト=ダール事務総長は12月15日付の発表で、「(通商協定を含め)EU・英国の将来関係についての準備が整うまでの時間(移行期間)が確保できることは欧州の企業・市民にとって助けとなる」と移行期間の検討を評価したが、同団体が2,850億ユーロ超と推定するEUのデータ経済を念頭に、「EUとしてはデータフローの断絶は受け入れられない。欧州には、国境や産業部門を越えた自由なデータフローが必要だ」とコメントした。同団体としては、これまでEU「データ経済」の一員だった英国がブレグジットに伴い、EU一般データ保護規則(GDPR)上の第三国として扱われることで、自由なデータ移転ができなくなるリスクを警戒しているとみられる。今後、通商協議の中、あるいはそれと並行して英国の個人データ保護レベルの「十分性認定」などを行うことによって、これまでの自由なデータフローを確保したいとの産業界の期待・思惑がうかがわれる。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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