英国産業界が交渉の進展を評価、メディアは課題も指摘

(英国、EU)

ロンドン発

2017年12月13日

英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる交渉第1段階の「十分な進捗」が12月8日に認定されたことを受け、英国の産業団体や保守党のEU離脱派の主要議員らはテレーザ・メイ首相をたたえるコメントを発表した。英国内の主要メディアも難交渉の進展を一斉に「ブレークスルー」と報じたが、第1段階では具体的解決策が出なかった北アイルランド問題など、第2段階の交渉に向けて多くの課題が山積している点も指摘されている。

産業界やEU離脱派の保守党議員は合意を歓迎

12月8日の交渉第1段階の「十分な進捗」の認定(2017年12月11日記事参照)を受け、主要経済団体はコメントを発表した。英国産業連盟(CBI)は「(今回の交渉の)ブレークスルーは、意志のあるところに道は開けることを示した」として英国政府の交渉姿勢を評価し、「待ち望んでいたプレゼント」になったとのコメントを発表した。英国経営者協会(IoD)も「ぎりぎりまでかかったが、ビジネス界は安堵(あんど)している」とコメントした。マイケル・ゴーブ環境相やボリス・ジョンソン外相らEU離脱派の保守党議員も、メイ首相の交渉の成果をたたえるコメントをそれぞれ発表した。

BBCは、メイ首相が極めて政治的に難しい状況にあったにもかかわらず、望んでいた成果を得たとしつつ、一方で、それらは欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長がメイ首相の続投を望んで与えた「個人的な成功」だったと評した。北アイルランドをめぐる合意内容についても、保守党のEU残留派と離脱派では解釈が異なるなど、今回の合意は全ての問題に答える内容ではなく、多くが未解決な点を指摘した。

メイ首相は議会で交渉の成果をアピール

メイ首相は12月11日に議会で説明し、「英国の納税者にとって公正な決着であり、すぐにEU残留より大きな節約となることが分かるだろう。英国は住宅や学校、国民保健サービス(NHS)など、国内の優先事項に投資することができるようになる」と交渉の成果をアピールした。

個別の論点では、英国・EU双方の市民権について、英国内で暮らすEU市民にEU法の適用を主張するEUに対して、英国が離脱協定を英国法の中に取り込むことで、英国法を適用することをEUに認めさせたと説明。財政問題の解決(清算)では、英国が支払うべきコミットメントの範囲と算定方法について合意し、その現在の試算結果は350億~390億ポンド(約5兆2,850億~5兆8,890億円、1ポンド=約151円)相当と述べた。北アイルランドについては、ベルファスト合意(注1)を完全に維持することなど既存の基本原則を残すことでEUと合意し、今後6つの原則(注2)に基づき具体的解決策を探っていくと説明した。

離脱交渉はいよいよ第2段階に移行

英国とEUはいよいよ第2段階の交渉に移行し、産業界が待ち望む移行協定や将来の関係に関する交渉が開始される。デイビッド・デービスEU離脱相は12月10日にBBCで、EUとの将来の関係について、カナダとEUの間で締結された包括的経済貿易協定(CETA)をベースとした「カナダプラス」を目指す意向を表明した。カナダとEUの間の貿易は関税品目ベースで98%の製品に対する関税が撤廃されているが、英国はこれに加えて金融などのサービスも含めた協定の締結を目指す意向だ。

第1段階の合意文書には、「最終的に全てが合意されない限りは、何も合意されていないと見なす」との事項が強調されている。英国にとっては、引き続き気の抜けない交渉が続くもようだ。

(注1)1998年に、英国とアイルランドの間で結ばれた和平合意。これにより、北アイルランドの将来の帰属は、北アイルランド住民の意思に委ねられている。また、コミュニティー間の合意による権限移譲に基づいて運営される北アイルランド政治体制が構築された。

(注2)6つの原則とは、(1)北アイルランドは引き続き英国の一部としてとどまること、(2)北アイルランドは引き続き英国内市場の一部としてとどまること、(3)英国内およびアイルランド南北に新たな国境は設けず、共通旅行区域(CTA)を維持すること、(4)北アイルランドを含む英国はEU関税同盟およびEU単一市場から離脱すること、(5)ベルファスト合意に基づく、南北協力のコミットメントとセーフガードを維持すること、(6)北アイルランドを含む英国はEU離脱後、EU司法裁判所による法の支配から外れること。

(佐藤丈治)

(英国、EU)

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