欧州委と英国、ブレグジット交渉の「十分な進捗」で合意-欧州理事会常任議長は第2段階交渉ガイドライン案を送付-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年12月11日

欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は12月8日、英国のテレーザ・メイ首相との早朝会談において、英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる交渉第1段階の「十分な進捗」を認定することで合意した、と発表した。12月15日に開催予定の欧州理事会(EU首脳会議)での了承が得られれば、「離脱協定」草案に着手する。EUとしては、第2段階でブレグジットに伴う激変緩和のための移行期間についての協議を急ぐ方針で、続いて通商協定やテロ・国際犯罪対策、外交・防衛政策などについても協議し、2018年秋をめどに交渉の第2段階を完了したいとしている。

トップ会談で交渉第1段階の「十分な進捗」を認定

欧州委は12月8日、欧州理事会に対してブレグジットをめぐる交渉第1段階に「十分な進展」があったことを認める勧告を行ったと発表した。今後、12月15日に開催予定の欧州理事会で、第1期段階の「十分な進展」についての最終決定を行い、この決定をもってブレグジット交渉は第2段階に移行する。

12月8日早朝、ユンケル委員長はメイ首相と会談し、欧州委がまとめた第1期交渉の「十分な進捗」を認める報告を了承した。この報告は、EU側が優先課題として重視してきた、(1)双方市民の権利保障、(2)財政問題の解決(清算)、(3)北アイルランド問題の3項目全てについて、2017年4月29日に特別欧州理事会が採択した交渉ガイドラインの定める基準に照らして、「十分な進捗」が達成されたとしている。

本報告書による3項目の内容は以下のとおり。

(1)双方市民の権利保障:ブレグジット以降も、双方市民の権利水準は変わらない。また、英国に暮らすEU市民がブレグジット以降も同等の権利保障を得るための行政手続きは低コストで、簡易なものであることを欧州委が確認した。

(2)財政問題の解決(清算):英国政府はEU加盟国として合意した財政負担を履行することを認めた。

(3)北アイルランド問題:英国政府は北アイルランド地域の特殊性を認め、ブレグジット以降の厳格な国境管理措置の適用を回避することを約束した。

欧州理事会の了承を得て「離脱協定」草案に着手へ

ユンケル委員長は「交渉は困難を極めたが、第1段階を突破した。英国との公正な合意に満足している。EU27カ国首脳が(次回の欧州理事会で)欧州委としての評価結果を了承すれば、ミシェル・バルニエ首席交渉官と直ちに交渉第2段階に着手する」とコメントした。同委員長は12月4日にも、交渉第1段階妥結(2017年12月5日記事参照)に向けて自信を示していた。また、バルニエ首席交渉官も「欧州委としての評価結果は3優先課題における実質的な交渉進展を反映している。過去の問題を清算することで、われわれは相互信頼の下で、将来関係についての協議に進むことができる」と語っている。

今後のステップとしては、欧州理事会から欧州委員会勧告への了承を得た上で、EUと英国政府が「離脱協定」の草案に着手。また、これと同時に、ブレグジットに伴う激変を緩和するための「移行措置」やその他の将来関係についての協議も行う。これらを含めて、交渉の第2段階は2018年秋をめどに完了する方針だ。その後、欧州議会や欧州理事会、英国政府での承認を得て、2019年3月29日までに離脱協定を締結する、としている。

「移行期間」中の英国はEUの意思決定には関与できず

また、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長も12月8日、交渉第1段階に「十分な進展」があったことを認める欧州委員会勧告を受け取ったことを発表。12月15日の欧州理事会に向けて準備を進めていた、「第2段階交渉ガイドライン」案をEU27カ国首脳に送付したことを明らかにした。

トゥスク常任議長によると、まず、ブレグジットに伴う企業や人々の混乱を回避するため、ブレグジット以降も、EU単一市場に残留できる「移行期間(措置)」についての協議を優先する考えだ。既に英国政府は約2年の移行期間を求めている。EU側は移行期間中、英国に以下を要求する考えだ。

○新法を含むEU法の完全順守

○財政(予算)負担

○EU司法裁判所管轄権をはじめとするEU司法制度への準拠

○そのほか、上記に関連する責務履行

一方、EUを離脱した英国は移行期間中にEUとしての意思決定に関与することはできない点も、トゥスク常任議長は明言した。

交渉第2段階に「残された時間は1年もない」

トゥスク常任議長によると、EUはこの移行期間(措置)の協議に続いて、EU・英国の通商協定を含む将来関係についての交渉を進めるとしている。EU側としては通商協定についての交渉準備はできているが、同時にテロや国際犯罪対策、外交・防衛政策などの課題についても協議を急ぐ必要があり、これらについての交渉ガイドラインの採択も欧州理事会として2018年早々に着手する必要があるとしている。

なお、トゥスク常任議長は「第2段階交渉ガイドライン」案をEU27カ国首脳に送付した後で、「今日のメイ首相との合意には満足しているが、最難関の課題(the most difficult challenge)はこれからだ」とツイッターに投稿している。既に交渉第1段階に相当の時間を要していることから、同議長は「残された時間は実質的には1年以下だ」との認識を明らかにした。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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