事業の採算性に課題、汚泥処理には商機も-深刻化するメコンデルタの廃棄物・排水問題-

(ベトナム)

ホーチミン発

2017年12月19日

ジェトロは11月20~24日、ベトナム南部のカントー市、アンザン省、ソクチャン省でミッション商談会を開催し、参加企業20社と1市2省の天然資源環境局や廃棄物・排水処理場などを視察した。地方政府関係者からは、環境関連の日本企業の進出を求める声が出たものの、参加企業によると、現状の税制面の優遇のみでは事業性は乏しいとのことだった。ただし、排水施設における汚泥処理についてはビジネスチャンスもあるようだ。

処理能力を超えて発生する廃棄物

メコンデルタ地域の最大都市カントーでは、日量600トンの廃棄物が発生し、回収事業者によって焼却場や埋め立て地へと運搬される。一方、同市内に3カ所ある焼却施設の処理能力は1日当たり合計250トン程度なので、残り350トンは埋め立てられている。訪問した焼却場の担当者は「摂氏600~1,000度で焼却されている」と説明するものの、有機物の自然発火を熱源としており、参加企業からは「焼却後の灰には固形物が残っていることから、説明があったような高温とは考え難く、ダイオキシンなど有害物質が発生する懸念がある」との声が聞かれた。また、埋め立てについても、既に廃棄物の量が処分場の収容能力を大きく超え、山積みされた廃棄物が放置された状態となっている。

写真 カントー市の焼却施設(ジェトロ撮影)

しかし、同市の状況はまだましだ。アンザン省では1日当たり1,300トン、ソクチャン省では600トンの廃棄物が出るが、焼却施設の処理能力はさらに低く、埋め立て処分場の用地も狭い。例えば、ソクチャン省の焼却炉は日量10トンの処理能力しかない。埋め立て処理場については、両省とも周囲を塀で囲っただけで、汚染問題は深刻だ。集められた廃棄物は自然発火の危険性があり、処理場の汚水の貯水池は雨期にはいっぱいになるようだ。アンザン省では汚水は日量50トンのペースで処理されるが、発生する汚泥処理も課題だ。さらに、収集が追い付かず未回収となった廃棄物が街中に放置されている様子もみられた。

 写真 アンザン省の埋め立て地で収容能力を超えるごみとあふれ出た汚水(ジェトロ撮影)

排水処理施設のない工業団地も

ベトナムでは300を超える工業団地が認可されているが、排水処理施設の整備は道半ばだ。カントー市天然資源環境局のグエン・ミン・テー副局長は「チャンノック工業団地では本来、1日当たり1万2,000トンの排水処理が必要だが、現状では6,000トンしか処理できていない。また、日量3万トンの排水処理施設を持つ別の工業団地では、処理水の水質がベトナムの環境基準を超えていたり、そもそも排水処理施設自体がない工業団地もある」という。2016年4月にベトナム北中部で発生した台湾企業の排水による魚の大量死問題(2016年8月8日記事参照)以降、地元住民の環境意識は高まっているが、現状、排水処理施設のない工業団地では、環境基準の順守は入居企業に委ねられている。政府の監視体制も不十分であり、住民は企業を信じるしかないという。

環境関連企業の優遇は限定的

カントー市、アンザン省、ソクチャン省の各天然資源環境局の担当者は異口同音に、「環境関連の日系企業の投資、進出を求めている」と話した。一方、ミッション商談会に参加した企業からは「日系企業の投資を望む声は分かったが、廃棄物処理事業を成り立たせるための優遇制度がない」との意見が聞かれた。ベトナムでは環境保護事業を対象とした税制面の優遇措置(詳細はジェトロウェブサイト参照)はあるものの、ミッション商談会の参加者企業からは「施設建設のための土地取得、廃棄物または汚水処理の単価保証や、廃棄物の数量保証などの支援がなければ、投資はままならない」との声が聞かれた。例えば、カントー市が事業者に支払う廃棄物処理費用は1トン当たり20ドル(固定)で、「この単価水準は低く、事業の採算性を確保するためには、数量が必要となる」(参加企業)という。

一方で、排水処理施設が業者に支払う汚泥の処理費用は高く、ソクチャン省のアンゲップ工業団地では、一般汚泥扱いとして1トン当たり50万ドン(約2,500円、1ドン=約0.005円)が支払われている。日々40トンの汚泥が発生することから年間では約3,650万円に上る。ホーチミン市輸出加工区・工業団地管理委員会(HEPZA)の発表によると、同市の処理費用は、一般汚泥がトン当たり60万~150万ドン、有害汚泥の場合は350万~1億5,000万ドンとさらに割高だ。ある参加企業は「汚泥処理であれば、現状の処理単価でも採算が取れる可能性はある」と話していた。

(佐々木進伍)

(ベトナム)

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