外国人労働者の強制社会保険などに注意点-「ベトナム労務・最新情報解説」セミナーを開催(1)-

(ベトナム)

ハノイ発

2017年12月18日

ジェトロは12月7日、ベトナム日本商工会(JBAV)との共催で、ベトナムの労務制度に関する最新情報を解説するセミナーをハノイ市で開いた。2018年1月から、外国人労働者に対する強制社会保険が義務化される見通しなどもあり、本テーマについての進出日系企業の関心は高く、出席者は約150人に上った。セミナーの内容を2回に分けて報告する。前編は労務における最新の注意事項について。

外国人の強制社会保険加入の細則は未公表のまま

セミナーでは最初に、強制保険、労働許可書の電子申請および労働組合費の納付に関する最新の注意事項について、日系コンサルティング会社AICベトナムのチェアマンである斉藤雄久氏が解説した。

強制保険のうち社会保険については法律の文言上、2018年1月以降、労働許可書、実務証明書、実務公認書、労働許可書の免除証書の発給を受け、使用者と雇用契約を締結している外国人が加入対象とされているものの、現時点(12月7日)においてもその細則が公布されず詳細が不明なため、政府から公表されている政令案に基づく説明となった。

保険料は、労働契約に基づく基本給、諸手当およびその他補充額の合計(以下、算定基礎額)に対して、使用者が17.5%、労働者が8%となっている。ただし、算定基礎額は一般公務員の月額最低賃金の20倍が上限とされており、現行法下では2,600万ドン(約13万円、1ドン=約0.005円)だ。このため、外国人が負担する保険料の最高月額は、雇用者負担が455万ドン、被雇用者負担が208万ドンとなる。

外国人が社会保険を受給できる場合は、(1)疾病、(2)妊娠・出産、(3)労働災害・職業病、(4)退職年金、(5)遺族給付金だ。保険金の受給はこれら(1)~(5)の場合のほか、労働契約を継続しない場合、または労働許可書を更新しない場合には、所定の手続きを経て一時金を受け取ることができる。一時金の給付額は、納付期間1年につき算定基礎となる賃金額の2カ月分で、納付期間が1年未満の場合には納付額に応じた額になる(ただし、算定基礎となる賃金2カ月分を超えない額が上限)と規定されている。

1月以降は悪質な未納の場合は刑事罰の対象にも

2018年1月以降、故意に保険料を納付しない、過少に納付するなどの悪質な違反行為があった場合は、行政処分を受けるだけでなく、法人・雇用者個人ともに刑法上の罰則対象となるため注意が必要だ。

前述のように、現時点では強制社会保険の加入対象となる外国人の範囲が不明確で、直接的な雇用契約がない出向者の場合でも、現地法人から住居手当などの金銭的な負担があれば実質的に雇用契約があるものと当局から判断される恐れがある。現段階では、2018年1月から直ちに保険料の納付が可能な状況にはならない可能性もある。斉藤氏は「後日、労働当局からの査察で指摘されないためには、対象者については1月以降の給与から企業側で引き当てをした上で納付が可能になった時点で遡及(そきゅう)して支払う方法が考えられる」としている。

労働組合費の未納により就業規則登録に支障が出る場合も

ベトナムでは企業内組合の有無に関係なく、企業が労働組合費として、社会保険料の支払い根拠となる賃金の2%を支払うこととされている(詳細は2015年11月6日記事参照)。

最近公表された公文書によると、企業内組合がある場合の納付先は労働総同盟の口座とされ、入金時点から24時間以内に、労働総同盟の口座から企業内労働組合の口座に分配額(現時点では、上部労働団体が33%、企業内組合が67%)が送金されることとなった。企業内組合には着金のための専用口座の開設が求められている。

労働組合費の未納については、罰則以外にも次のような問題が発生する。ベトナムでは10人以上を直接雇用している場合、書面による就業規則の制定・登録が必要となる。就業規則公表前には企業内組合などへの意見聴取と議事録の作成が義務付けられているが、企業内組合がない場合は地域の労働団体がその役割を果たす。しかし、労働組合費を納付していない雇用者に対しては、労働団体が意見聴取に応ぜず、就業規則の職場での公表や管轄地域当局への登録などに支障が出るケースもあることから、注意が必要だ。

労働許可書の電子申請時には書類内容に一層の注意を

10月2日からは労働許可書の電子申請が導入され、ポータルサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを通じてオンラインによる申請手続きが可能となった。現時点でも、従来の窓口申請は可能だが、電子申請を利用するメリットとしては手続きに要する時間の短縮が図られることなどが挙げられる(表参照)。

表 労働許可書の窓口申請と電子申請の比較
項目 窓口申請 電子申請
外国人の就労に対する人民委委員長の承認 雇用の30日前 雇用の20日前
上記承認取得までの期間 提出後15日間 提出後12日間
労働許可書取得の申請期限 就労予定日の15営業日前 就労予定日の7営業日前
労働許可書取得までの期間 申請後7営業日 申請後5営業日
労働許可書の免除確認申請期限 就労予定日の7営業日前 就労予定日の5営業日前

(出所)セミナー配付資料

電子申請にかかる注意点として、事前に電子署名の認証取得が必要なことに加え、窓口申請時と異なり、当局による提出書類のチェックが電子申請後となるため、発給可否の通知まで問題点を指摘されない恐れがあることが挙げられる。従って、これまで以上に申請書類の内容に注意を払う必要がある。

(竹内直生)

(ベトナム)

ビジネス短信 3bb9f4c1e4d48055