欧州委のバルニエ首席交渉官、英国とのFTAに言及-次回欧州理事会に向け将来の協力関係を模索-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年11月21日

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は11月20日、英国シンクタンクの欧州改革センター(CER)が開催した会合で基調講演を行い、英国のEU離脱(ブレグジット)問題についての基本認識を語った。「財政問題解決(清算)なしには、通商協議には応じない」とする、これまでの厳しい交渉姿勢をやや緩め、ブレグジット以降の対英通商関係のベースとして自由貿易協定(FTA)を想定していることにも触れた。次回の欧州理事会(EU首脳会議)に向けて、何とか事態の打開を図りたいEU側の意向が背景にあるものと考えられる。

事態の打開図りたいEU側の意向か

欧州委でブレグジット交渉の総責任者を務めるバルニエ首席交渉官は11月20日、欧州改革センター(CER)がブリュッセルで開催した会合で基調講演に立ち、現在交渉中のブレグジット問題についての基本認識を明らかにした。今回の基調講演では、これまでの「財政問題(英国が負うべき対EU債務履行)の解決がなければ、通商協議には応じない」とする同首席交渉官の強気のトーンは影を潜め、EUと英国の歴史的な友好関係を強調。ブレグジット以降も英国はEUとの連携を維持し、強い欧州の再構築に向けて相互に協力すべき、との持論を展開した。

バルニエ首席交渉官は講演の前半で、将来関係について「妥結なしのシナリオは(念のため、準備はしているが)われわれの結論として想定はしていない」と語った。むしろ、「英国の論議で度々、妥結なしのシナリオが浮上することが残念だ」と述べた。また、ブレグジット以降も、EUと英国の強力なパートナーシップを確立するカギとして、(1)英国の秩序ある離脱のための条件について合意すること、(2)EU単一市場との一体性を維持すること、(3)双方にとって対等な競争条件を担保すること、を挙げた。(1)の具体的な条件としては、a.双方の市民の権利保障、b.財政問題の解決、c.北アイルランド問題の解決というEUの基本的な交渉方針を繰り返し、(2)については、EUの法体系や行政システムから離脱しながらEU単一市場にとどまろうとする楽観論を厳しく批判している。他方、今回の講演では、(3)として、FTAを通じて対等な競争条件を確立するという、EU・英国間の将来の通商関係の在り方も含めて言及している。これまでの6回に及ぶ交渉会合でも、ブレグジット問題の先行きがみえない中、次回12月の欧州理事会(2017年11月13日記事参照)に向けて、何とか着地点を見いだしたいとの意向がEU側にもある。

EUとして野心的なFTAを提案する用意を表明

バルニエ首席交渉官は「英国はEU単一市場の一部ではなくなるが、(FTAなどを通じて)単一市場にアクセスすることはできる」と指摘。良いかたちでブレグジット交渉が妥結すれば、(関税が復活する)WTOベースの貿易関係に直面する事態は回避でき、最大限の市場アクセスを確保できるとの認識を示した。

ただ、EU・英国の将来関係についての議論は「これまでの通商交渉のようにルールの共通点を極大化する取り組みではなく、差異を極小化するための協議で、その決着は簡単ではない」とも指摘。同首席交渉官は、競争政策や国家補助規制、租税調和、食品安全、環境基準など広範な課題について認識の共有がなければ、野心的な協力関係を構築することはできないとしている。

バルニエ首席交渉官は「過去の清算をどのように決着するかについて合意できれば、直ちに将来関係について協議に応ずる用意がある。このために(英国以外の)加盟国とも内部で準備を始めたところだ」とも述べた。さらに、「EUとして最も野心的なFTAを提案する用意もある」とも語り、ブレグジット以降の対英通商関係のベースとしてFTAを想定していることにも触れた。また、同首席交渉官は「通商関係にとどまらず、市民の安全(治安)のほか、犯罪やテロ対策、外交・安全保障面での連携も必要」と、将来関係についてこれまでになく踏み込んだコメントをした。

今回の講演では、英国が望むFTAについて言及することで、英国政府の今後の債務履行について明確なコミットメントを引き出し、財政問題の解決に向けた道筋をつけたいとの意向がうかがわれる。

(前田篤穂)

(EU、英国)

ビジネス短信 5cfc2cbb73fdd1bb