英首相のフィレンツェ演説を転機に、一定の前進とEU側が評価-第4回ブレグジット交渉が終了-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年09月29日

ブリュッセルで4日間の日程で開催されていた英国のEU離脱(ブレグジット)にかかる第4回交渉会合が9月28日に終了した。英国のテレーザ・メイ首相がイタリア・フィレンツェで行った演説で、英国がEU加盟国として合意した債務について履行する方針を明らかにしたことをEU側は評価。今後、英国政府が履行債務額を明示するなど協議が前進すれば、10月19~20日の欧州理事会で、「十分な進捗」が認定される可能性も出てきた。

首席交渉官が明るいトーンでコメント

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は9月28日、今回で4回目となるブレグジット交渉会合を終えて、英国のデービッド・デービスEU離脱相と共に記者会見に臨んだ。これまでと異なり、バルニエ首席交渉官の明るいトーンのコメントが目立ち、9月22日にフィレンツェで英国のテレーザ・メイ首相が行った演説が大きな転換点となったことを示唆した。

バルニエ首席交渉官はメイ首相の意見表明のポイントについて、(1)ブレグジットの結果、EU加盟国が新たな財政負担を強いられることはなく、(EU補助金などの)給付が目減りすることもない、(2)英国はEU加盟国として合意した責務について履行する、の2点を総括している。バルニエ首席交渉官はEU側の優先課題の中でも、「財政問題解決(清算)」を重視する傾向が強いが、メイ首相のフィレンツェ演説で、英国政府がこれまでに約束した拠出金(EU側からみた英国の債務)などの支払いに応ずる方針が明らかになったという前提で、英国の姿勢に一定の評価を示した。

バルニエ首席交渉官はメイ首相のフィレンツェ演説以降、交渉方針の「明確性」という表現を繰り返し(2017年9月28日記事参照)、「十分な進捗」が認められる唯一の方法は、28カ国による全ての約束(英国の債務履行を示唆)が履行されることだとも指摘している。

EU側は債務額の確定に強い関心

バルニエ首席交渉官は今回の交渉成果として、優先課題ごとに以下の認識を明らかにしている。まず、「双方市民の権利保障」については、英国のEU離脱に伴い権利保障の問題に直面する双方市民のために、英国政府はブレグジット以降も、EU法に整合する法制度を援用することで合意したとしている。英国の司法当局に対しても、双方市民の権利が行使されるよう、離脱協定にも盛り込まれる見通しだ。他方、EU司法裁判所(CJEU)の管轄権や、(ブレグジットに伴い離散した)家族・親族の再統合、「社会保障の輸出」(年金・保険などの越境受給)などの問題については結論が出なかったとしている。

続いて、「財政問題解決」については、専門作業部会で技術的な問題を含めて詰めが行われたとし、バルニエ首席交渉官は成果があったとの認識を示した。しかし、英国がEU加盟国として合意した責務に関するポジションについて現時点ではまだ固まっていないと英国側が説明している点にも言及し、バルニエ首席交渉官は「EU28カ国として合意した責務は履行されなければならない」とも指摘、「それこそが『十分な進捗』の実現」を意味すると述べた。英国が履行する「債務額」の明確化がEU側にとっていかに重要かがうかがわれる。

最後に、「北アイルランド国境問題」についても、「建設的な協議を行い、幾つかの分野で進捗があった」と前向きなトーンで同首席交渉官は総括した。EU側も英国側も北アイルランドの特殊性は認識しているとも語り、英国とアイルランド間の国境線の自由化を担保する「共通旅行区域(CTA)」を維持する方針であることを確認、基本原則のドラフト作業に入ったことも明らかにした。

なお、今後の交渉日程については、10月9日の週に第5回ブレグジット交渉会合を開き、今回の積み残し案件について協議する。10月19~20日にブリュッセルで開催予定の欧州理事会(EU首脳会議)では、(十分な進捗の確認も念頭に)EU首脳とも協議する機会を得たい考えを示した。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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