政府が貿易政策と関税制度のホワイトペーパーを公表-EUとの交渉決裂の事態も想定-

(英国)

ロンドン発

2017年10月20日

英国政府は10月9日、EU離脱(ブレグジット)後の貿易政策および関税制度の概要(ホワイトペーパー)を公表した。貿易政策については、EU離脱後もWTO政府調達協定(GPA)締約国として残留したいとする考えなどが示され、関税制度については、英国政府自身に関税率の設定権限を付与することなどを内容とする「関税法案」の審議を進めることが明らかになった。政府はこれらの文書を通じて、EUとの交渉が決裂する「ノー・ディール(No deal)」ケースにおける制度的断絶を最小化する意向だ。

WTOのGPAや一般特恵関税制度などを維持

10月9日に発表された2つのホワイトペーパーは、EU離脱後に英国が貿易国家としての立場を維持するとともに、離脱に伴う貿易制度上の障害回避に向けた立法措置を行うためのステップとしての位置付けを持つ。

まず、貿易政策については、大きく4つの方針が掲げられた。1つ目として、政府調達に関する国際的な取り決めであるWTOのGPA締約国としての立場を維持する考えが示された。ルールに基づく国際貿易環境づくりを引き続き推進するため、EU離脱後もGPAにとどまりたいとする。また、2つ目として、貿易面からの開発途上国支援として、一般特恵関税(GSP)制度を含む特恵措置をはじめEUが開発途上国向けに設けている制度などを、英国独自の措置としても維持する方向性を明らかにした。

さらに3つ目として、現在EUを通じて結んでいる第三国との貿易関係を維持するための立法措置を行うこと、4つ目として、不公正な取引に対応する機関の設立をはじめとする貿易救済措置の枠組みを構築することが示された。

独自の関税設定権限も担保

関税制度については、EU離脱に備えて「関税法案」の審議を進める考えを明らかにした。政府はEU離脱に伴ってEU関税同盟も離脱するとしており、その後の英国・EUの関係性はEUとの交渉結果に左右される。EUと何らの取り決めにも合意できない「ノー・ディール」シナリオの可能性もあることから、「関税法案」はそのような場合も念頭に置き、政府に関税関連の権限を付与するものだ。具体的には、関税分類や関税率の設定、関税割当を行うことを政府に認めるとともに、輸入品への付加価値税(VAT)の設定権限を担保するなど、幅広い内容となっている。

本法案の立案・審議についての明確なスケジュールについては明らかになっておらず、政府は、まずは今回提示された概要についての産業界の反応を待つことにしている。

「あらゆる事態に備えるのが政府の責務」とメイ首相

2つのホワイトペーパーが公表されたのと同日、テレーザ・メイ首相は議会において、EU離脱についての自身の考え方を説明した。これは、9月22日にイタリア・フィレンツェで行ったスピーチ(2017年9月25日記事参照)を踏まえたものだが、その中で今回明らかにされた貿易政策と関税制度の考え方についても言及した。メイ首相は「2つのホイワトペーパーは英国が独立した貿易国家として機能する道を開き、EU離脱後も最善の関税で障壁のない貿易を行うための革新的な関税システムを作り上げることに寄与する」とその意義を強調したほか、「EUとの交渉が成功裏に妥結するのが全ての人にとっての利益となると確信しているが、あらゆる事態に備えておくことが政府としての責務。今回のホワイトペーパーは、EU離脱の翌日に法的・制度的断絶により、産業界に生じる衝撃を最小化するためのステップだ」とし、ホワイトペーパーを通じて、ビジネス環境の安定性の確保に努めたいとの認識を示した。

(佐藤央樹)

(英国)

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