離脱交渉、EU側は英国に方針の明確化を迫る-メイ首相の財政問題解決に応じる姿勢は評価-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年09月27日

欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長は9月26日、英国のテレーザ・メイ首相とロンドンで会談後、イタリア・フィレンツェでの首相発言(9月22日)を含め、英国側がEU加盟国として負担を約束している財政問題解決(清算)に応じる姿勢を示した点などを評価する考えを示した。他方、次期欧州議会選挙の準備が始まる2018年後半までに英国のEU離脱(ブレグジット)問題にめどを付けたいEU側からは、対EU債務支払いなど、英国に対して交渉方針を明確にするよう求める声が出ている。

トゥスク常任議長がメイ首相と会談

欧州理事会のトゥスク常任議長は9月26日、英国のメイ首相とロンドンで会談し、ブレグジット問題について協議した。前日の25日からブリュッセルで4回目となるブレグジット交渉(28日までの予定)が開かれているが、トゥスク常任議長は今回のメイ首相との会談や、9月22日にフィレンツェで同首相が表明した認識(2017年9月25日記事参照)を踏まえて、26日夕刻、「結局のところ、『いいとこ取り』の発想が限界を迎えたことが明らかとなった。少なくとも、私はそう願う」との異例のコメントを発表した。

またトゥスク常任議長は、メイ首相の姿勢が「建設的で現実的なものになった」との認識を示したが、同時に現在の交渉状況については「懸命な作業が続いているが、『十分な進捗』は全くみられない(すなわち、通商交渉を含めた将来関係についての協議に入れない)」と厳しい見解を明らかにした。トゥスク常任議長は、現在の交渉状況については悲観的な見方をしているが、メイ首相がフィレンツェで、英国がEU加盟国として負担を約束している財政問題解決(清算)に応じる姿勢を示した点は評価する考えで、英国側の財政問題に対する妥協に期待感をにじませた。

優先課題の解決が将来関係協議の条件

EU側を代表してブレグジット交渉の指揮を執る、欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官も9月25日、「われわれEU側と同じ建設的な認識を明らかにしてくれた」と9月22日のフィレンツェでのメイ首相の発言を評したが、「英国が(EU域外の)第三国になる日(2019年3月29日)は刻々と近づいており、今求められていることは英国政府がメイ首相の声明を明確な交渉のポジションに落とし込み、交渉のテーブルで議論することだ」と指摘、「明確性が求められる時機(“the moment of clarity”)」と繰り返し、英国側に対EU債務支払いを含めて優先課題の具体的な解決策を迫った。

また、フィレンツェでメイ首相が、EU離脱後のビジネス環境の安定性を確保するため、2年程度の移行期間を求めたことについて、バルニエ首席交渉官はEU側の交渉ガイドラインを念頭に、EUが想定する移行期間の在り方について以下の3点を挙げた。

(1)移行期間(の要否)についてはEU側の利益にかなうことを前提に判断する。

(2)移行措置はEU単一市場の法的・財政的枠組みに従う必要がある。具体的にはEUにおける「規制」「予算(財政)」「司法」などの既存システムの適用を、(英国がEU離脱以降も)移行期間中は受け入れなければならない。

(3)英国が求める移行期間の議論開始はあくまで(EUが求める3優先課題についての)十分な進捗が条件であることに変わりはない。相互の将来関係についての協議のためには信頼関係醸成が必要であり、3優先課題の解決がそれを担保することになる。

バルニエ首席交渉官は特に(3)の重要性を指摘し、移行期間の議論には応じる姿勢を示しつつ、3優先課題の解決がその前提にあるとのこれまでの立場をあらためて強調した。なお同首席交渉官は、メイ首相がフィレンツェで演説した9月22日にも、首相発言を評価する声明を発表したが、この中でも「われわれは英国の秩序ある離脱のための条件について、2018年秋までに合意に達する必要がある」と述べ、2019年5~6月に想定されている欧州議会選挙の準備が始まる2018年後半までにはブレグジット問題にめどを付けたい考えを明らかにしている。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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