優先課題について進展なく、EU側の不信感強まる-第3回ブレグジット交渉会合が終了-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年09月01日

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は8月31日、英国のEU離脱(ブレグジット)第3回交渉会合後の記者会見で、「双方市民の権利保護」「財政問題」についての本質的な進展がみられなかったことを問題視した。特に「財政問題」については今回の交渉の中で、英国政府がEU離脱以降は債務負担に応じない姿勢を明らかにしたことで、EU側としての不信感を強めていると語った。ただし、「北アイルランド国境問題」については一定の成果があったとの認識を示している。

「北アイルランド国境問題」は成果ありの認識

欧州委のバルニエ首席交渉官は8月31日、ブリュッセルで8月28日から4日間の日程で開催されていた第3回ブレグジット交渉会合を終え、記者会見に臨んだが、「英国のEU離脱に向けて時間だけが刻々と過ぎていく」と焦燥感をあらわにした。

バルニエ首席交渉官は8月28日の交渉開始直前に、「われわれは離脱問題に関する全ての項目について英国の明確な姿勢を必要としている。(EU離脱に関する)曖昧な要素を速やかに除去できれば、それだけ早く(EUと英国との経済・通商を含めた)将来関係についての交渉を始められる」とコメント(2017年8月30日記事参照)し、英国がEUに対して負うとされる財政問題(債務問題)への対応など諸課題に対する姿勢を明確にしない英国政府を牽制してきた。

バルニエ首席交渉官によると、「北アイルランド国境問題」については、英国とアイルランド間の国境線の自由化を担保する「共通旅行区域(CTA)」について、本質的な進展があったという。1998年4月に北アイルランド問題の和平プロセスに道筋をつけた「ベルファスト合意(聖金曜日協定)」に基づくアイルランドと北アイルランド(英国)の「南北協力」についての議論は残ったと指摘したが、今回の協議で「(総じて)北アイルランド国境問題については成果があった」というのが、同首席交渉官の認識だ。しかし、同首席交渉官は「主要課題についての決定的な前進は皆無だった」としている。また、「このままのスピードでは、(EU・英国の通商協定を含む)将来関係についての議論を開始するための前提となる、(優先課題についての)十分な進展があったと欧州理事会に勧告することは当分できないだろう」とも付言し、交渉の進捗についての悲観的な見方を明らかにした。

「財政問題」などをめぐる英国政府の姿勢を問題視

続いて、バルニエ首席交渉官は、相互の信頼形成が必要な課題として、今回進展がみられなかった「双方市民の権利保護」「財政問題」について言及した。それによると、「双方市民の権利保護」については今回の交渉で幾つかのポイントについて確認ができたとしたが、2017年8月に英国で合法的に暮らす欧州経済領域(EEA)市民約100人に対して、英国政府から「退去通告」が誤送付されたことに触れ、「英国政府は直ちに誤りを認めたが、こうした事件は初めてではない。EU司法裁判所(CJEU)の管轄の下で、双方市民の権利が適切に保障される必要性を再確認したが、他方で、これは今回の交渉で合意できなかった点でもある」と指摘。司法管轄権の視点で「双方市民の権利保護」をめぐる双方の姿勢に隔たりが大きいことを示唆した。

このほか、「財政問題」について、バルニエ首席交渉官は「EU28カ国の一員として引き受けた債務(EU予算の負担)について、(英国がEUを離脱するとの事情から、後で)EU27カ国に負担を強いるのはフェアではない」と述べた。また、同首席交渉官は「今回の交渉で、EU離脱以降、英国政府に債務負担の意思がないことが明らかとなった」とも語り、英国がEUの一員として第三国に対して保証した融資や財政支援なども含めて、EU離脱以降は債務負担に応じない姿勢であることを問題視した。「このような不確実性がある中で、どのように信頼感を醸成し、(EU・英国の通商協定を含む)将来関係についての議論を開始できるのか」と、英国政府の交渉姿勢に不満を募らせた。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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