欧州委、ブレグジットに関するポジションペーパーを公開-通商含む5分野の交渉方針を明らかに-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年09月08日

欧州委員会は9月7日、この前日にEU加盟27カ国に示した英国とのEU離脱(ブレグジット)交渉のポジションペーパーを公開した。優先課題の1つである「北アイルランド国境問題」をはじめ、「通関処理」「政府調達」「個人データ保護」「知的財産権」など貿易・投資の実務的課題を含む。英国の離脱日の前後には通関の混乱が懸念されるが、「付加価値税(VAT)の賦課や還付」「原産地認定」「二重用途物品に対する輸出規制」などに関する当局間の情報共有を含む「行政協力措置」などを通じて混乱回避の道を模索すべきとしている。

貿易・投資分野の交渉方針も一部示す

欧州委が9月7日に公開した、ブレグジット問題をめぐるポジションペーパーは、6日付でEU27カ国の政府に提示したもので、EUとしての優先課題の1つである「北アイルランド国境問題」のほか、「(秩序ある離脱のための)通関処理」「政府調達」「個人データ保護」「(地理的表示を含む)知的財産権」など5分野について、EU側の交渉方針を明らかにしている。

欧州委はこれまで、「双方市民の権利保障」「財政問題」「北アイルランド国境問題」の3件の優先課題を解決した上でなければ、通商関係を含めその他の分野の交渉には応じない姿勢を明確にしてきたが、今回、相次いで公開したポジションペーパーでは、一部ではあるが貿易・投資に関連する分野についても触れている。8月31日に終了した第3回ブレグジット交渉会合(2017年9月1日記事参照)で大きな進展がみられなかったことから、EUとしても交渉の本格的な加速を迫られている。

通関の混乱を回避する道を模索

今回のポジションペーパーの中で特に注目されるのが、「通関処理」をめぐるものだ。これによると、EU離脱に伴い英国は通商上の「域外国」となり、EUの「関税同盟」からも離脱することになる。これはEU・英国間の関税復活のみならず、煩雑な通関手続きがあらためて必要となり、VATや物品税についても、これまでEU域内として認められてきた措置が適用されなくなることを意味する。欧州委はポジションペーパーの狙いを「英国の秩序ある離脱を通関処理についても保障するため」と説明しているが、EU・英国間にはさまざまな貿易・取引形態がある上、通関処理のタイミングもあらゆる状況を想定する必要があることから、離脱日やその前後には積送品(委託販売のために発送した商品)の取り扱いなど通関実務の混乱が懸念されている。

欧州委としては、こうした実務的混乱を回避するためには、(1)通関上のステータスに応じた準拠法や手続き上の定義を「離脱協定」の中で明確にすること、(2)それらについての方針を「行政協力措置」の枠組みを生かして双方で合意することが必要としている。例えば、通関上のステータスとして、「欧州連合関税法典(UCC)に基づき、離脱日にEU27カ国または英国あるいは第三国において、一時在庫の状態あるいは保税措置など特別通関手続きが取られた状態の商品」については、離脱日以降もEU27カ国あるいは英国の通関当局としてUCCの関連条項を適用すべきとしている。また、「VATの賦課や還付」「原産地認定」「二重用途物品に対する輸出規制」などに関する当局間の情報共有といった、離脱日以前から認められてきた「行政協力措置」については、離脱日以降も継続すべきとの考えを示した。

ベルファスト合意を離脱日以降も順守

他方、「北アイルランド国境問題」について欧州委は9月7日付で声明を出し、1998年4月に北アイルランド問題の和平プロセスに道筋をつけた「ベルファスト合意(聖金曜日協定)」を英国のEU離脱以降も順守すべきで、英国とアイルランド間の国境線の自由化を担保する「共通旅行区域(CTA)」の存続についても配慮すべきとしている。

なお、欧州委でブレグジット交渉の総責任者を務めるミシェル・バルニエ首席交渉官は「今回の北アイルランド国境問題をめぐる交渉方針はアイルランド政府との緊密な連携の下に作成されたもので、交渉の基礎となる。われわれの狙いはブレグジットに伴う北アイルランド地域への悪影響を極小化することにある。しかし、離脱は英国の決定によるもので、北アイルランド国境問題の克服を含む解決に向けた責任は英国側にある」とコメントしている。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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