サウジアラビアがたばこや炭酸飲料などに物品税を導入-湾岸諸国で初、歳入増と市民の健康増進を狙う-

(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、湾岸協力会議<GCC>)

ドバイ、リヤド発

2017年08月01日

湾岸協力会議(GCC)諸国は、たばこおよびその関連製品、エナジードリンク、炭酸飲料への物品税の導入で合意している。他国に先駆けてサウジアラビアで6月に導入され、アラブ首長国連邦(UAE)などでも2017年内の導入に向けた法整備が進んでいる。

石油外歳入の拡大に向け、付加価値税も導入へ

原油価格の低迷による財政悪化を背景に、GCC諸国は2018年1月1日(サウジアラビアなどの予定)から、5%の付加価値税を導入することを決めるなど(2016年2月18日記事参照)、加盟国で連携して石油外歳入の拡大に取り組んでいる。

さらに、GCC諸国は健康に害のある商品、具体的にはたばこおよびその関連製品、エナジードリンク、炭酸飲料への課税でも合意している。実施時期や税率は各国に委ねられており(上限は100%)、導入に向けて各国は法制度の整備を進めている。

サウジアラビアは、2017年5月23日(ヒジュラ暦1438年8月27日)付の国王勅令No.M/86により物品税法を導入し、6月11日午前0時に他国に先駆けて、嗜好(しこう)品に物品税を課した。課税率は、たばことエナジードリンクが100%、炭酸飲料が50%。他のGCC諸国でも順次導入される予定で、UAEの連邦課税庁は5月、サウジアラビアと同様にたばことエナジードリンクに100%、炭酸飲料に50%の物品税を第4四半期に導入すると発表した。なおGCC統一関税法により、GCC諸国共通で、既にたばこには100%、エナジードリンクと炭酸飲料には5%の関税がかけられており、それに物品税が上乗せ課税されることになる。

現地紙「アル・エクテサーディヤ」によると、物品税導入によるサウジアラビアの税収増は、2017年後半の約半年で50億~70億リヤル(約1,500億~2,100億円、1リヤル=約30円)と想定される。UAE政府は歳入見込みを発表していないが、報道によると、たばこ税だけで年間20億ディルハム(約600億円、1ディルハム=約30円)と見込まれている。

物品税導入が消費行動に影響も

サウジアラビアとUAEのエナジードリンクや炭酸飲料の市場は堅調に拡大しており、1人当たりの購入量も増加し続けている(表参照)。両国とも1人当たりのエナジードリンク、炭酸飲料の購入量は日本よりも多い。世界保健機関(WHO)は、GCC諸国の砂糖消費量は世界でも高水準にあると警告しているが、実際に肥満率はカタール41.0%、クウェート38.3%などと総じて高く、GCC諸国のほとんどが世界ワースト20位に入っている。

表 サウジアラビアとUAEのエナジードリンク・炭酸飲料の市場規模 (出所)ユーロモニター、IMF統計

また、2013年のUAEの喫煙率は男性18.1%、女性2.5%で、さらに子供の喫煙率が男子15.6%、女子5.8%となっており、対策を講じなければ2030年までに6人に1人がたばこに起因する病気で死亡すると保健予防の専門家は予想している。今回の課税措置には、石油外歳入の拡大だけでなく、市民の健康増進、ひいては政府の医療費負担削減という目的もある。

物品税の導入について、UAEの英字紙「ザ・ナショナル」が一般市民3,316人を対象として意見聴取した結果によると、導入には60%の市民が理解を示し、この新税により62%の人々が自らの生活習慣を変えるインセンティブになると答えている。なお回答者のうち、エナジードリンクやソフトドリンクを飲む人は70%、また喫煙者は14%だった。

既に税が導入されたサウジアラビアでは、課税前に1.50リヤルだった炭酸飲料(330ミリリットル缶)が2.25リヤルに値上がりした。ユーロモニターは2017年2月時点で、2016年から2021年にかけてソフトドリンク市場がサウジアラビアで年平均5.1%、UAEでは7.1%成長すると予測していたが、今回の課税措置により成長鈍化が懸念される。日本からUAEへは2016年に約32億円の炭酸飲料が輸出(輸出総額の16.2%、世界2位)されており、他のGCC諸国も含めて重要な市場だ。2017年6月の小売店への出荷量が半減した日系企業と取引のあるサウジアラビア系代理店もある。GCC諸国政府には、歳入拡大や健康増進と、市場への影響とのバランスを考慮したかじ取りが求められている。

(星出純江、山本和美)

(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、湾岸協力会議<GCC>)

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