NAFTA再交渉に向け関税恩典や原産地規則の維持を要請-メキシコ日本商工会議所がパブリックコメントを提出-

(メキシコ、米国、カナダ)

メキシコ発

2017年07月21日

メキシコ日本商工会議所は7月18日、メキシコ経済省の北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉に向けたパブリックコメントの募集に応じ、意見書を提出した。進出日系企業によるNAFTA域内輸出への貢献に触れつつ、域内の関税の恩典や原産地規則の維持を求めている。

進出日系企業は生産・雇用・輸出に貢献

メキシコ経済省は6月26日から1カ月間、NAFTA再交渉に係るパブリックコメントを受け付けている。これに応じてメキシコ日本商工会議所(森本卓会頭)は7月18日、「NAFTAの近代化交渉に関する意見具申」を提出した。同会議所はメキシコ進出日系企業ならびに関連した経済活動に携わるメキシコ企業を中心に構成され、6月末現在で470社が会員になっている。

意見書では、同会議所が3月にアンケートを実施した結果、日系会員企業によるメキシコからの米国、カナダへの輸出額は年間19億5,300万ドルに上り、自動車・同部品でみれば対北米輸出全体の25%を占めるとした。また、NAFTAを活用していると回答した会員企業による雇用者は11万7,382人に上り、この数は毎年社会保険庁(IMSS)に登録される新規雇用者数の約20%程度に相当するなど、日系企業がいかにメキシコにおける生産活動、雇用の創出、対NAFTA域内向け輸出に貢献しているかについて述べている。

協定の近代化には賛同も枠組みは維持

同会議所は、こうした日系企業の貢献はNAFTAの存在が前提条件になっているとした上で、NAFTA近代化に向けた再交渉について、以下のような要望を挙げている。

〇現行NAFTA規定の維持:NAFTA発効当時に想定されていなかった電子商取引など、現状の国際経済活動を反映した新たな項目を追加すること、すなわち協定の近代化には賛同するが、現行の制度的枠組みの変更は企業のコストアップにもつながることから、避けてもらいたい。

〇関税免除の維持:いかなるかたちであれ、物品への関税賦課を復活させることや数量割当を導入するなど、保護的措置は避けてもらいたい。

〇原産地規則における現行規定の維持

・品目別原産地規則(PSR)に関し、全ての品目について計算方式や域内原産割合(RVC)を変更することは避けてもらいたい。

・自動車・同部品分野におけるトレーシングルール(注1)、累積の規定、準費用のアベレージングなどの特別ルールも現行規定のまま維持してもらいたい。

・トレーシングルールについて、米国の鉄鋼業界から鋼材をトレーシング対象品目に加えるべきだとの意見も出されているが、仮にそのような事態になればメキシコで自動車を生産してNAFTAの原産地規則を満たすことは極めて困難になることから、必ず避けてもらいたい。

・以上言及した点は、わずかな変更であっても、これまで長い時間をかけて構築されてきた生産のサプライチェーンに影響を与え、企業にとってはコストアップ要因となり、その結果メキシコでの生産を見合わせざるを得ないといった事態にもつながりかねない。このような観点から現行制度の変更には反対する。

〇労働規制強化の回避:労働規制を過度に強化する措置の導入は避けてもらいたい。

〇投資家と締約国間の紛争処理規定の維持:NAFTA第11章に規定されている「投資家対国家」の紛争処理規定を維持してもらいたい。

〇現行の原産地証明書制度の維持:NAFTAで規定されている自己証明制度を維持してもらいたい。

〇産業分野別生産促進プログラム(PROSEC、注2)の維持:NAFTAの近代化・改定にかかわらず、PROSEC制度は維持してもらいたい。

鉄鋼の原産地規則に強い関心

意見書の要望は以上だが、メキシコ日本商工会議所として特に具体的に要請しているのは、自動車産業における鉄鋼をめぐる原産地規則についてだ。米国で6月末に開催されたNAFTA再交渉に関する公聴会で、米国鉄鋼協会(AISI)はトレーシングリストに鉄鋼を加えるように主張した。特にメキシコは、熱延鋼板の多くをNAFTA域外からの輸入に頼っており、熱延鋼板がトレーシング対象に追加されれば、メキシコで製造されている冷延鋼板や亜鉛メッキ鋼板であっても、原料の熱延鋼板をNAFTA域外から輸入していれば、最終的な鋼板の輸入調達価格に含まれる熱延鋼板の価格については「非原産材料価格」に計上しなければならなくなる(2017年7月18日記事参照)。従って、進出日系企業としては、トレーシングリストに鉄鋼を加えることは必ず避けていただきたい、と強く要請している。

(注1)NAFTAの完成車(大型バス・トラックを除く)におけるRVCの算定においては、「トレーシングルール」と呼ばれる特別なルールが用いられている。トレーシングルールの下では、定められた関税番号リスト(Annex403.1)に該当する部品(トレーシング対象部品)が域外から輸入されている場合にのみ、当該部品の輸入時点までさかのぼって「非原産材料価額」に含めることが求められる。Annex403.1に該当しない部品については、たとえ域外から輸入したとしても「非原産材料」扱いにはならない。

(注2)政令が定める24業種の企業(生産者)は、必要な部品・原材料、機械などを0%、3%、5%などの優遇関税で輸入できる制度。24業種ごとのリスト(第4条リスト)にある製品をメキシコで生産する企業は、経済省にプログラム登録することにより、業種ごとに指定された原材料・部品および機械・設備(工具類を含む)のリスト(第5条リスト)にある品目を優遇関税で輸入できる。

(中島伸浩)

(メキシコ、米国、カナダ)

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