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欧州委首席交渉官、「ハードブレグジット」に備え準備呼び掛け-中小企業経営者や労組、消費者団体などの代表を前に-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年07月11日

欧州委員会で英国のEU離脱(ブレグジット)交渉の総責任者を務めるミシェル・バルニエ首席交渉官は7月6日、EUの諮問機関である欧州経済社会評議会(EESC)の総会で、中小企業経営者や労働組合、消費者など各種団体の代表を前に「ハードブレグジット」も視野に「今から準備すべき」と訴えた。同首席交渉官は、EUの交渉ガイドラインの原則に終始し、自動車と金融など戦略的な特定産業について例外的にEU単一市場へのアクセスを認めるなど、産業を絞った「セクターアプローチ」を完全否定した。

「産業界は準備を急げ」とハッパを掛ける

欧州委のバルニエ首席交渉官(ブレグジット交渉責任者)は7月6日、中小企業経営者、労働組合、消費者など利益団体を代表する評議員で構成されるEUの諮問機関、欧州経済社会評議会(EESC)の総会であいさつし、「特に産業界はブレグジットの事業への悪影響を慎重に評価し、今から準備すべき」と繰り返し訴えた。

バルニエ首席交渉官は冒頭、「今日は経済・社会の利益団体の各位にブレグジットに伴う今後の不透明性に備え、立ち向かう必要性を率直に語りたい」と切り出し、「確かなことも幾つかある」と述べ、以下のような現状認識を示した。

○英国は2019年3月29日深夜をもって、(EU域外の)第三国になること

○英国政府は(EUとの)将来関係について、譲れない「防衛ライン」を明確にしたこと〔具体的には、a.今後、EU市民の(英国での)自由移動は認めないこと、b.英国法に基づく統治を進めること、c.EU司法裁判所(CJEU)の管轄から離脱すること、d.(EUとは)独自に通商協定の締結を目指すこと〕

○これは(英国が)EU単一市場から去り、EUとの関税同盟も選択しないことを示唆すること

EU単一市場への「セクターアプローチ」を否定

こうした英国政府の方針について、バルニエ首席交渉官はEUの交渉ガイドライン(2017年5月1日記事参照)の原則に立ち、EU側の立場として以下を明確にしたと述べた。

○人・モノ・資本・サービスの自由移動は不可分で、EU単一市場の切り売りに応じることはない

○産業分野単位でのEU単一市場へのアクセス(セクターアプローチ)は想定していない(例えば、いったんEU単一市場を離脱した国が「自動車と金融産業は戦略的に重要だからEU単一市場へのアクセスを例外的に認めてほしい」と期待しても、その選択は認めない)

○EUは単なる巨大市場ではなく、価値基準を共有する経済・社会共同体である。このことからEUは立法権を完全に掌握すべきで、第三国はわれわれの価値基準を尊重しなければならない

バルニエ首席交渉官は、英国政府がEU市民の自由移動を拒否し、CJEUの管轄からの離脱を選択するならば、EU単一市場へのアクセスは認めない姿勢をあらためて示し、「英国がEU離脱を選択したことについて罰する意図はないし、報復の意識もない」「これは英国の選択に伴う結果でしかないのだ」と語った。

合意なしの場合は現状を維持できず

他方、バルニエ首席交渉官は「ブレグジットが(英国以外の)EU27カ国にも大きな損害をもたらす」とし、「その損害を最小限に食い止めることが自らの責務だ」と語った。また、英国がEU域外の第三国となることの問題点として、「EU加盟国相互に認められている付加価値税(VAT)還付システムを共有できなくなること」「生きた動物や動物起源の生鮮食品などについても輸入時にEU通関措置の対象となる(EU加盟国間の取引と比較して時間がかかる)こと」を挙げた。特に今後、アイルランドと英国(北アイルランド)の国境周辺でのEU通関措置復活の問題にどう対処するかが課題との認識を示した。

また、こうした国境措置復活の問題は欧州に生産拠点を集約している製造業の経営にも影を落とすと警鐘を鳴らした。具体的には、英国の北ウェールズ・ブロートン事業所で主翼部を生産しているエアバス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの事例を紹介し、「事業の成功は、(英国・ブロートン事業所の)後工程を担うハンブルク(ドイツ)やトゥールーズ(フランス)の各事業所への輸出手続きや認証手続きの簡易性に負うところが多い。さらに、熟練したエンジニアや技能者を欧州中から確保できたことにも依存している」と指摘した。

そしてバルニエ首席交渉官は、英国でしばしば語られる「(条件の)悪い合意であれば、合意なしの方がよい(No deal is better than a bad deal外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」という見解についても否定的な見方を示した。同首席交渉官は「通常であれば、合意しなければ現状は維持される」としつつも、「ブレグジットの場合は、合意しなければ英国との貿易関係は遠い過去にさかのぼり、WTOルールに依拠することを意味する。乗用車では10%、アルコール飲料なら平均で19%、魚介類であれば平均12%もの関税が復活することになる」と厳しい見立てを明らかにした。

バルニエ首席交渉官はEUでも老練な交渉官として知られ、今回の演説の主旨も、英国政府の出方を探る手立ての1つとも考えられるが、EU諮問機関の評議員、特に中小企業経営者団体の代表者などの前で、「ハードブレグジット」も念頭に、直ちに準備してリスクに対処すべきと語りかけた点で注目される。

(前田篤穂)

(EU、英国)

通商弘報 689809fa21cfd22c

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