特別欧州理事会、対英「交渉ガイドライン」を採択-主導権はEU側にあると強調-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年05月01日

 特別欧州理事会(特別EU首脳会議)が4月29日にブリュッセルで開催され、英国政府との離脱協議のための「交渉ガイドライン」が採択された。欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長は、EU27ヵ国から対英交渉の力強いマンデート(権限付託)を得たとの認識を示した。交渉は「段階的アプローチ」に基づくことが確認され、EU側が優先条件としている(1)市民の権利保全、(2)財政問題(英国側のEUに対する債務負担)、(3)アイルランド国境問題について、協議の十分な進捗が担保された場合に限り次の段階に進むことになる。

「十分な進捗」を評価・認定するのはEU首脳

トゥスク常任議長は4月29日、特別欧州理事会での「離脱交渉ガイドライン」をめぐる採決は即決だったことを明らかにした。欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長のツイッターによると、開会から15分以内に全会一致で採択したとしている。同議長は、EU加盟27ヵ国全てから、英国との交渉を進める上で力強いマンデートを得たとの認識を示し、英国政府との協議はEUが前提とする協議を全てクリアした場合に次の段階の交渉に進む「段階的アプローチ」に基づくことを強調した。具体的には、EU側がこれまでも要望してきた、(1)EU・英国相互の市民の権利保全の問題、(2)財政問題(推定600億ユーロと見積もられている英国政府のEUに対する債務支払いなど)、(3)英国(北アイルランド)とアイルランドの国境問題、の全ての項目について「十分な進捗(sufficient progress)」が担保された場合に限り、通商交渉を含む次の段階に進むとの見解を示した(2017年4月3日記事参照)。特にEUと英国の将来の経済関係を定める通商協定などは「英国がEU域外の第三国になってから協議・合意されるべき」と厳しい方針だ。

トゥスク議長は「協議についての進捗状況を評価・認定するのはEU首脳だ」と、交渉の主導権はあくまでEU側にあることをあらためて強調した。EU側は「市民の権利保全」が最優先の課題との認識だが、同議長は英国で暮らすEU市民、EU域内に居住する英国人が合計450万人に達することも念頭に、「スピードも重要だが、質が何よりも大切」と語った。

英政府による市民の権利保全に懸念示す

一方でトゥスク議長は、ここ数週間、英国側から「市民の権利保全についてEU側といつでも合意する用意がある」との声を聞いているとして、全ての生活者・労働者・就学者の権利が担保される必要があると述べ、英国側の合意の意向は交渉を速やかに進めるための方便ではないかとの疑念を示唆した。もともと英国がEU離脱に傾いた背景には、英国の労働市場に参入しているポーランドやバルト3国など東欧系の労働者も問題があったわけで、それらの家族を含めた権利保全を英国政府が保障できるのか、疑問を提起した格好だ。

秩序ある離脱に向けたEU・英国の交渉は、英国で総選挙が実施される6月8日以降、本格化する見通しだ。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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