長期就労ビザの廃止・改正でセミナー開催

(オーストラリア)

シドニー発

2017年06月07日

ジェトロ・シドニー事務所はシドニー日本商工会議所と共催で、「オーストラリア就労ビザ(サブクラス457ビザ)廃止・改正に関する緊急セミナー」を5月15日に開催した。セミナーは参加希望者が殺到したため、急きょ同日に2回開催し、約120人が参加した。サブクラス457ビザおよび新たなビザ(TSSビザ)の概要を確認するとともに、今後の日系企業へ予測される影響などについて解説する。

「サブクラス457ビザ」を廃止しTSSビザを導入へ

オーストラリアに進出している日系企業の多くが取得している長期就労ビザ(サブクラス457ビザ)が2018年3月をもって廃止され、新たにテンポラリー・スキル・ショーテッジ・ビザ(TSSビザ)が導入されることとなった(2017年5月19日記事、表参照)。サブクラス457ビザは廃止まで猶予期間が設定されているものの、発給条件は期間中の見直しを含みつつ段階的に厳格化される予定だ。

(1)2017年4月19日時点での改正点

○職業リスト(CSOL)が厳格化され、サブクラス457ビザで認められていた職業は651から435へと激減。うち59(注1)には、職種ごとの追加要件(Caveats)がある。例えば、日系企業の駐在員の多くが選択している「最高経営責任者(CEO)や業務執行役員(MD)」については、年間売上高が100万オーストラリア・ドル(約8,200万円、豪ドル、1豪ドル=約82円)未満、スタッフが5人未満(ただし、5人の定義は未発表)、年間基本給与が9万豪ドル未満の場合はビザを発給しないことなどが追加要件となっている。

○CSOLは、2年間有効の短期熟練職業リスト(STSOL)と、4年間有効の中長期戦略技能リスト(MLTSSL)に改編。

(2)2017年7月1日時点での改正点(予定)

○STSOLとMLTSSLの見直しが行われる。

○年間給与が9万6,400豪ドル以上の場合に免除されていた英語力テスト(IELTS)が必須となる。

○ビザ申請料金が1,060豪ドルから1,080豪ドルへと増額。

○犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)の提出(過去10年間に1年以上滞在した全ての国)。

(3)2017年12月31日時点での改正点(予定)

○ビザ申請時に申告した年収が実際の給与と合致しているか、オーストラリア移民省と国税局が連携して申請者の税務番号を取得し、調査を行う。

○スポンサー企業がビザ取得に係る義務を違反していた場合、移民省によりスポンサー企業が公開される。

(4)2018年3月時点での改正点(予定)

○サブクラス457ビザを廃止し、TSSビザが導入される。

表 TSSビザの概要 (出所)政府発表資料

日系企業への影響や今後の対策の検討が必要

今回のセミナーは、AOMビザコンサルティングの足利弥生代表、FCBスマート・ビザのジェイコブ・ワイリー移民部長を講師に招いて開催した。セミナー講師陣は「今回のビザ改正で最も影響が大きいのは、CSOLの厳格化だ。CEOやMDのビザの有効期限が2年に短縮されたことに加え、輸入者または輸出者、製造業の生産マネジャー、研究開発マネジャーなど日系企業に関係する職種が削減された。さらに、追加要件が付されている職種も多いため、同内容の確認が必要となる。従来、年間給与が9万6,400豪ドル以上の場合には免除されていたIELTSが必須化されたことも大きい」と述べた。

また、「これらへの対策として、(1)最新のCSOLを確認した上で、オーストラリア国籍保持者や永住ビザ取得者の現地雇用も視野に入れつつ、派遣する職種を検討すること、(2)2018年3月まではサブクラス457ビザとして申請が可能なため、CSOLは既に更新されていることに注意しつつ、駐在員の派遣前倒しも検討すること、(3)駐在員の人選に際し、計画的な英語教育を行うなど、IELTSに備える(IELTSは合格してから2年間有効なため、先行受験も視野に入れる)こと、(4)若手や職務経験の短い者は、研修ビザ(注2)の活用も検討すること、(5)駐在員と日本本社との間で、ビザ発給厳格化に伴う危機管理意識を共有することなどが重要だ」と説明した。

セミナー出席者からは「企業規模が小さいため、職種ごとの追加要件が満たせない企業は、駐在員をオーストラリアから撤退せざるを得ないのか」「スタッフ要件には短期雇用職員も該当するのか」「現状では、日系企業の新規進出は相当厳しいものになるが、今後、ビザ制度は見直されることはないのか」など、各社が置かれている状況を踏まえ、これまで公表されている情報では判断できない項目に対する質問が相次いだ。これに対し、講師陣は「現状では、運用方法などの詳細が公開されていないため、不明な部分も多い。厳しい現状ではあるが、今後の見直し状況や順次公開される内容に留意する必要がある」と説明した。

(注1)追加要件を必要とする59職種には、CEOやMDのほか、営業マーケティングマネジャー、財務マネジャー、経営コンサルタントなどがある。追加要件は職種により異なっている。

(注2)サブクラス457と類似しているビザ。申請にIELTSが不要で、また最低給与水準がないなどのメリットがあるが、有効期間は最長2年間。

(藤原琢也)

(オーストラリア)

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