長期就労ビザを廃止、中・短期の2種類に-連邦政府が外国人労働ビザの厳格化を発表-

(オーストラリア)

シドニー発

2017年05月19日

 連邦政府は4月18日、オーストラリア人の雇用を最優先するとの考えから、長期就労ビザを2018年3月に廃止し、発給条件を厳格化した新たな「テンポラリー・スキル・ショーテッジ・ビザ(TSSビザ)」を導入すると発表した。

自国民の雇用最優先の方針に

オーストラリアは移民国家だが、労働力については「原則、国内の労働市場からの人材を活用するものの、現地で確保できない人材については海外労働市場から採用する」という考えの下、外国人に対し就労ビザを発給してきた。しかし、オーストラリア連邦政府は4月18日、長期就労ビザ(テンポラリー・ワーク・スキル・ビザ、通称「サブクラス457ビザ」)を2018年3月に廃止し、新たにテンポラリー・スキル・ショーテッジ・ビザ(TSSビザ)を導入すると発表した。

今回の措置に関し、ターンブル首相は「オーストラリア人の雇用と価値観を最優先する」と述べており、増加する若年層の失業対策のために、これまでの移民政策を見直し、より自国民の雇用を優先させる方針を目指すこととなった。今回の措置は野党の労働党(労働組合が支持母体)への牽制も大きな要素となっている。

「サブクラス457ビザ」は厳格化の後に廃止

日系企業が人材を長期派遣する場合、これまで主に利用していた就労ビザは前述の「サブクラス457ビザ」だ。同ビザは、職種が限定される(注1)ものの、3ヵ月以上の就労が可能で、期間は最長4年となっていた。同ビザは今回、2018年3月の廃止まで猶予期間が設定されているものの、発給条件が以下のように厳格化された。

  1. 職業リスト(CSOL)数を651から435に削減(4月19日から実施済み、注2)。
  2. 年間給与9万6,400オーストラリア・ドル(約800万円、豪ドル、1豪ドル=約83円)以上。英語力テスト(IELTS)免除措置を撤廃。
  3. 4月18日時点で発給されている同ビザは有効。しかし、現在申請中の対象者は新たなCSOLなどで審査されるため、発給されない可能性もある。その場合、申請手数料は払い戻される。

短期は2年、中期は4年が有効期限

新たな就労ビザであるTSSビザは、オーストラリア国内で不足している高度な技術を持つ人材を対象とし、短期間と中期間の2種類で構成されている。ビザの有効期限は原則として最長2年の短期間で、一部の高度な技能や英語力が求められる職種については最長4年の中期間のビザが発給される。発給条件は厳格化しており、これまでより高度な技能やIELTSが求められる。

○短期間ビザ(2年)発給条件

  1. オーストラリア国内で不足している技能を有する外国籍保持者が対象。
  2. 有効期限は最長2年間。1回のみ更新可能。
  3. IELTS(1.0~9.0のスコアに分かれる)のリスニング、リーディング、スピーキング、ライティングのうち、1科目ごとに最低4.5以上であること、かつ全体平均で5.0以上のスコアが必要。
  4. 2年以上の関連業務経験が必要。
  5. 国内で人材が確保できない理由や確保できないことの証明のために労働市場調査が必要〔ただし、日本・オーストラリア経済連携協定(日豪EPA)が2015年1月に発効されたことに伴い、日本国籍保持者は免除〕。
  6. 犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)の提出。
  7. 短期熟練職業リスト(STSOL)に掲載された職種が対象(268職種、注3)。

○中期間ビザ(4年)発給条件

  1. 短期間ビザ対象者より高度な技能を有する外国籍保持者が対象。
  2. ビザの有効期限は最長4年間。条件を満たせば、3年経過後に、永住ビザへの切り替えが可能。
  3. IELTSのリスニング、リーディング、スピーキング、ライティングのうち、1科目ごとに最低5.0以上のスコアが必要。
  4. 2年以上の関連業務経験が必要。
  5. 中長期戦略技能リスト(MLTSSL)に掲載された職種が対象(183職種)。

さらに、今回の就労ビザの発給要件変更と併せ、永住ビザの発給要件も見直された。サブクラス457ビザと同様に、CSOL数が削減されるほか、ビザの種類によっては申請時の年齢上限が50歳未満から45歳未満に引き下げられた。また、「オーストラリア人の価値観」(信教の自由、性の平等などに関する考え方の審査)を受け入れることなど、発給要件が厳格化された。

今回の新制度により、就労期間、職業リスト、申請条件が変更され、全体的に条件が厳格化された。ただし、現時点では新制度の運用詳細が必ずしも明らかになっていないことから、日系企業によるオーストラリアへの投資や事業活動に与える影響は未知数だ。今回の措置について、現地の日系企業の情報収集ニーズは極めて高い。なお、ジェトロ・シドニー事務所では、5月15日にシドニー日本商工会議所と共催で「サブクラス457ビザ廃止に関する緊急セミナー」を開催した。

(注1)職業リスト(CSOL)および職業コード(ANZSCO)(ポジション、職務内容、必要なスキル)に掲載されている職種に限定。

(注2)削減された216リストには、通信事業者、食品技術者、輸出入業者、調達マネジャー、生産マネジャー(製造業)、研究開発マネジャー、小売りバイヤー、旅行代理店マネジャー、卸売業者など、日系企業が関係するとみられる職種が含まれている。

(注3)日系企業の駐在員の多くが利用している「最高経営責任者(CEO)や業務執行役員(MD)」は、この短期熟練職業リストに分類されている。

(藤原琢也)

(オーストラリア)

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