10年後に財政収支を黒字化の見通しを提示-2018年度予算教書の詳細を公表(1)-

(米国)

ニューヨーク発

2017年06月12日

トランプ政権は5月23日、2018会計年度の予算教書を発表し、議会に提出した。「偉大なアメリカのための新たな基盤」との表題が付された就任後初となる予算教書では、政策の優先事項を前政権から大幅に変更し、政府全体の合理化を図ることにより、大幅な歳出抑制策を実行することなどが盛り込まれた。また、これにより、10年後の2027会計年度には、財政収支を黒字化させるとの見通しを示した。2回に分けてその内容を概観する。

義務的経費の削減などで2018年度の財政赤字額は縮小

トランプ政権は5月23日、就任後初となる2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の予算教書(注1)の詳細を発表した。表題を「偉大なアメリカのための新たな基盤」とし、国民の安全と豊かさを確保するため、政策の優先事項を前政権から大幅に変更するとした。また、納税者から納められた貴重な税収を、政府は真に価値のある政策に絞って効率的、効果的に使用することを約束し、歳出と債務残高のGDP比の減少につなげるとした。

3月16日に公表された予算教書の方針(2017年4月6日記事参照)では、2018会計年度の裁量的経費の大枠が示されたが、今回発表された詳細版では、社会保障費などの義務的経費、税制改革などの歳入面を含めた、予算の全体像が提示された。また、今後10年間の歳出・歳入の規模、財政収支、政府債務残高などについての見通しも示された(表参照)。

予算教書によると、2018会計年度は、歳出総額が前年度比0.8%増の4兆945億ドル(GDP比20.5%)、歳入総額が5.6%増の3兆6,543億ドル(GDP比18.3%)との案になっている。

表 予算教書で示された歳入・歳出、財政収支、政府債務残高の姿(単位:10億ドル、%、△はマイナス値)
会計年度 歳出 歳入 財政収支 政府債務残高
金額 前年度比 GDP比 金額 前年度比 GDP比 金額 GDP比 金額 GDP比
2016年度 3,853 4.5 20.9 3,268 0.6 17.8 △ 585 △ 3.2 14,168 77.0
2017年度 4,062 5.4 21.2 3,460 5.9 18.1 △ 603 △ 3.1 14,824 77.4
2018年度 4,094 0.8 20.5 3,654 5.6 18.3 △ 440 △ 2.2 15,353 76.7
2019年度 4,340 6.0 20.7 3,814 4.4 18.2 △ 526 △ 2.5 15,957 76.2
2020年度 4,470 3.0 20.3 3,982 4.4 18.1 △ 488 △ 2.2 16,509 75.1
2021年度 4,617 3.3 20.0 4,161 4.5 18.0 △ 456 △ 2.0 17,024 73.7
2022年度 4,832 4.7 19.9 4,390 5.5 18.1 △ 442 △ 1.8 17,517 72.2
2023年度 4,933 2.1 19.4 4,615 5.1 18.1 △ 319 △ 1.3 17,887 70.2
2024年度 5,073 2.8 18.9 4,864 5.4 18.2 △ 209 △ 0.8 18,150 67.8
2025年度 5,306 4.6 18.9 5,130 5.5 18.2 △ 176 △ 0.6 18,379 65.3
2026年度 5,527 4.2 18.7 5,417 5.6 18.3 △ 110 △ 0.4 18,541 62.7
2027年度 5,708 3.3 18.4 5,724 5.7 18.4 16 0.1 18,575 59.8

(注)2016会計年度は実績、2017会計年度以降は見通し。
(出所)行政管理予算局(OMB)

歳出のうち、裁量的支出については、3月の方針でも示されていたとおり、国防費の歳出上限を540億ドル増やす一方、非国防費の上限を同額減らすことや歳出上限の内訳変更などが盛り込まれた。義務的経費については、食料品などの購入に使われるフードスタンプ(食料配給券)やメディケイド(低所得者向けの公的医療保険)への支出減など、低所得者層向けプログラムへの支出抑制策などが盛り込まれ、前年度比1.5%減の2兆5,355億ドルとされた。

歳入については、4月26日に公表された税制改革案の骨子(2017年5月12日記事参照)に沿った方針(所得税・法人税改革など)が盛り込まれた。詳細は明らかにされなかったが、予算教書で示された見通しによると、税制改革案に沿った減税を実施しても、今後10年間で歳入が約2兆2,000億ドル増えるとされている。行政管理予算局(OMB)のミック・マルバニー局長はこの見通しについて、大型減税を通じた経済成長の実現、税の簡素化による捕捉漏れの削減などを通じて、減税を行っても増収が期待できると述べるとともに、現時点では「税制改革が財政収支に対して中立的であると仮定することが最も合理的と考えた」としている。

この結果、2018会計年度の財政収支は4,402 億ドル(GDP比マイナス2.2%)の赤字となり、2016、2017 会計年度(マイナス3.2%、マイナス3.1%)と比べて赤字幅が改善する見込みとした。政府債務残高は15兆3,530億ドル(GDP比76.7%)と、2016、2017会計年度に比べて増加するものの、経済成長を通じた増収などにより、GDP比が前年度比で0.7ポイント縮小する姿が示された。

歳出抑制策を継続し2027年度の財政黒字達成を見込む

予算教書では、2019会計年度以降も多岐にわたる歳出抑制策を継続することが掲げられており、こうした取り組みを通じて、10年後の2027会計年度には、財政収支を黒字化させる見通しを示した。今後10年間で義務的経費・裁量的経費を合わせて累計3兆5,630億ドルの収支改善を図る案が盛り込まれており、マルバニー局長は5月23日の記者会見において「納税者第一の予算だ」と述べた。この結果、2027会計年度の歳出総額は5兆7,080億ドル(GDP比18.4%)、歳入総額は5兆7,240億ドル(18.4%)になると見込まれ、財政収支は160億ドルの黒字(GDP比0.1%)に転ずる姿を示した。また、政府債務残高のGDP比は59.8%と60%を下回る水準になり、2016会計年度末の77.0%から大きく改善する見通しとした。

政府の3%成長の見通しに楽観的との声も

こうした収支改善が可能とする見通しの背景には、大幅な歳出削減策の実施に加えて、政策変更による経済成長や所得増の実現を通じて、今後10年間で2兆620億ドルの収支改善効果が含まれていることがある。一方、米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」のマーク・ゴールドウェイン氏がこうした見通しに対して、経済成長率の見通しが他のどの機関の見通しよりも突出して高く、算出根拠も十分に明らかとされていないことから、「仮の経済成長」に基づく予算教書だと述べる(ナショナル・パブリック・ラジオ5月23日)など、予算教書の前提が楽観的との声も聞かれる。

2017年1月24日に議会予算局(CBO)が公表した財政見通し(注2)では、2020年代半ば以降の実質成長率を1.9%、名目成長率を4.0%と見込んでいるが、今回公表された予算教書では、実質成長率を3.0%、名目成長率を5.1%としている(図参照)。マルバニー局長は「建国から240年間の(実質)平均成長率は3%を超えており、第二次世界大戦後の平均も同様だ」とし、3%の実質成長率は「かつての標準的な成長率であり、再びトランプ政権下で新しい標準になる」と述べた。

図 予算教書における経済成長率の見通しとCBO見通しの比較

(注1)予算教書は、その年の10月1日から始まる会計年度(翌年9月30日まで)の予算案の編成方針について、大統領が議会に対して示すもの。最終的な予算編成権は、歳出・歳入のための関連法案を議決する議会が有している。

(注2)CBOによる見通しは、現行法が続くとの前提の下で作成された。

(権田直)

(米国)

ビジネス短信 b4936682498de753