長期的な資金支援枠組みは不透明-EU離脱によるエネルギー産業への影響(3)-

(英国)

ロンドン発

2017年06月06日

英国は、エネルギー供給網の整備や再生可能エネルギーの導入のために、EU基金や欧州投資銀行の支援を得ている。政府は2016年秋、EU基金から支援を受けるプロジェクトに対する将来の支援の在り方についての考えを明らかにしたが、長期的支援の枠組みは不透明な状況にある。

存在感の大きいEUの各種基金

政府によると、EU基金から英国への支援額は年間当たり10億~15億ポンド(約1,420億~2,130億円、1ポンド=約142円)に上る。EU離脱により、こうした支援を受けられなくなることが懸念されているが(2016年8月10日記事参照)、エネルギー分野も例外ではない。エネルギー分野を対象とするEU基金は数多く、2000年代末の欧州経済危機からの回復に寄与するよう設立された「回復のための欧州エネルギープログラム(EEPR)」、主要エネルギー網の整備に活用される「コネクティブヨーロッパファシリティー」、先進的なエネルギー関連技術開発を促進する「ホライズン2020」などを通じて、さまざまなプロジェクトが支援を受けてきた。また「欧州地域開発基金(ERDF)」も、地域経済の発展に寄与するエネルギープロジェクトを支える役割を果たしている。

英国に対するこれまでの支援実績の一例をみると、EEPRを通じて、洋上風力発電、高圧直流送電線、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、国際連系線の分野で合計4件、総額4億ポンド規模での支援が行われている(表参照)。

表 EEPRによる支援プロジェクト(単位:100万ポンド)
プロジェクト プロジェクト立地点 期間 EEPR支援額
洋上風力発電所 スコットランド 2009~2016年 40
高圧直流送電線 スコットランド 2009~2015年 74
二酸化炭素回収・貯留(CCS) サウス・ヨークシャー(イングランド) 2009~2013年 180
国際連系線 ウェールズ(~アイルランド) 2010~2012年 110
合計 404

(出所)欧州委員会

また、分野別にERDFの支援を受けたプロジェクトをみると、エネルギー関連プロジェクトの割合は7%と必ずしも大きくはない(図1参照)。しかし、この基金の性格がEU加盟各国の地域経済の格差是正にあることを踏まえれば、経済成長が遅れている地域にとってその意義は大きい。例えば、英国の中でも経済成長が劣後するウェールズ西部では人工ラグーンを利用した潮力発電への期待が高まっており、ERDFを利用した研究開発も進められている。

図1 分野別のERDF支援額割合(2014~2020年) (出所)英国政府資料

EIBの貸付額は分野別で最大に

EU基金に加えて、英国のエネルギーインフラ整備に貢献してきたのが欧州投資銀行(EIB)だ。EIBはインフラ整備や環境・気候変動対策を重点融資分野としており、英国も多くの支援を受けている。2012~2016年の5年間におけるEIBからエネルギー分野への貸付額は、分野別で最大の93億ユーロに上る(図2参照)。2017年に入ってからも、既に送電網やガス配給網の整備にEIBの資金が投入されることが決まっている。

図2 英国への分野別EIB貸付額(2012~2016年) (出所)EIB

このようにエネルギー分野への貢献度が高いEU基金やEIBだが、EU離脱後の英国プロジェクトへの支援については不透明だ。政府は2016年秋、EU基金からの支援についての当面の取り扱いについて公表したが(2016年8月30日記事参照)、長期的な支援の在り方は検討段階にある。

エネルギー関連の基金では、政府系のグリーン投資銀行(GIB)がオーストラリアの投資銀行グループのマッコーリーに売却されることが4月20日に明らかになった。GIBは再生可能エネルギー関連プロジェクトの国内整備の旗振り役ともなっている。EU基金などと併せ、エネルギー関連プロジェクトの資金支援の枠組みが揺れ動く状況にある。

(佐藤央樹)

(英国)

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