長期的な支援の在り方はなお不明確-EU基金の適用可能性を財務省が公表(2)-

(英国)

ロンドン発

2016年08月30日

 EU基金の英国に対する適用可能性についての報告の後編。欧州地域開発基金など4つのEU基金に関連するプロジェクトについて、秋季財政報告の公表までに実施の承認を得られたものは、基金からの完全な支援を受けられるとしている。プロジェクトの関係者は、これを歓迎する一方で、長期的な支援の在り方が不明確な点を批判している。

<秋季財政報告の公表前なら支援保証>

 財務省は、EU基金の適用可能性に関する不確実性を払拭(ふっしょく)するため、EU基金から支援を受けるプロジェクトの当面の取り扱いについて公表した。

 

 まず、「欧州農業農村振興基金(EAFRD)」、「欧州社会基金(ESF)」、「欧州海洋漁業基金(EMFF)」、欧州地域間協力(注)を含む「欧州地域開発基金(ERDF)」の4つの基金から支援を受けるプロジェクトについて、例年11月ごろに財務省から公表される秋季財政報告までに実施の承認を取り付けた場合は、当該プロジェクトの完了が英国のEU離脱後であっても、完全な支援を得られるとしている。一方、秋季財政報告の公表後に承認されたプロジェクトがEU基金による支援を保証されるか否かについては検討が必要とし、今後、詳細を明らかにするとしている。

 

 大学などの研究機関が活用する「ホライズン2020」のように、英国内の組織・機関が欧州委員会に対し直接申し込みをする基金が果たしてきた役割を、財務省が引き受ける姿勢を示した。これには、EU離脱後まで継続するプロジェクトも含まれる。

 

 これまで「欧州農業保証基金(EAGF)」が果たしてきた農業従事者の所得保障については、国内制度が整うまでの移行措置として、2020年までは現在の所得水準を保証するとしている。なお財務省は、政府保証の具体的な財源などは明らかにしていない。

 

<各地域の政府は厳しく批判>

 関連組織・機関は、財務省の公表内容をおおむね歓迎している。全国農業者組合(NFU)は「農業従事者にとってポジティブな内容」とコメントをした。科学者団体の王立協会は「EU基金が果たしている役割を政府が引き受けるとする財務省の判断は、国民投票以降、われわれが要求してきたものであり、極めて歓迎」と高く評価した。

 

 一方で、2020年以降といった長期的なEU基金の適用可能性については依然不透明なままで、この点を懸念する声も相次いでいる。スコットランド政府のデレク・マッケイ財務相は「発表された内容は不十分で、包括的・長期的な保証がなされなかったことは、スコットランドの農業・漁業従事者と地域社会を投資や雇用の危機にさらす」と問題点を指摘し、「スコットランドはEU離脱を望んではいなかったし、今も望んでいない。今回の発表で唯一明らかになったのは、EU基金に関する不確実性が継続するということだけ。EU離脱により投資や雇用に影響が出るのは極めて遺憾だ」と厳しく批判した。さらに、「EU基金による支援を2020年以降も保証する最良の策は、スコットランドがEUとの関係性を維持すること」と述べ、スコットランド独立の是非を問う住民投票実施の可能性をほのめかした。

 

 この認識は、ウェールズ、北アイルランド両政府も同様で、ERDFおよびESFから大規模な支援を受けるウェールズ政府のカーウィン・ジョーンズ首相は「正しい方向に向かってはいるものの、ウェールズに適用される基金の半分しか保証されていない」とコメントした。BBC813日)によると、ウェールズの英国からの独立を主張する地域政党「プライド・カムリ(ウェールズ党)」所属の国会議員ジョナサン・エドワード氏は「発表に目新しいことは何もなく、政府が保証すべき最低限の内容」と財務省発表に低い評価を下している。また、北アイルランドでは、EU平和プログラムの下、2013年までに13億ユーロの財政支援を受け、アイルランドとの間のインフラ整備などを進めるなどEU基金の存在感が大きいことから、今回の内容では不十分だとする声が強まっている。

 

(注)EU加盟国間で共有している課題を解決し、単一市場の機能の効果的な発現を支援するプログラム。

 

(佐藤央樹)

(英国)

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