メイ政権、EU離脱関連8法案を提示-女王が施政方針演説-
(英国)
ロンドン発
2017年06月22日
下院総選挙を受けて召集された議会の開会に当たり、エリザベス女王が6月21日、テレーザ・メイ政権の施政方針演説を行った。「クイーンズ・スピーチ」と呼ばれる演説には、EU離脱への準備や経済活性化に向けた法案などが盛り込まれたが、保守党がマニフェストに掲げ世論の反発を呼んだ在宅介護費用に関する新制度などへの言及はなく、少数与党による政権運営の難しさをうかがわせる内容となった。
下院議員の任期中に離脱予定
施政方針演説に盛り込まれ、今次議会で審議されることとなる法案は表のとおり。
EU離脱の実行 | 欧州共同体法廃止法案 |
---|---|
関税法案 | |
貿易法案 | |
移民法案 | |
漁業法案 | |
農業法案 | |
原子力セーフガード法案 | |
国際制裁法案 | |
経済の強靭(きょうじん)化 | 自動運転・電気自動車法案 |
宇宙産業法案 | |
高速鉄道法案 | |
スマートメーター法案 | |
社会保険料法案 | |
社会の公正化 | 旅行保護法案 |
テナント料法草案 | |
家庭内暴力法草案 | |
自動車損害賠償法案 | |
裁判所法案 | |
金融ガイドライン・請求法案 | |
動産抵当法案 | |
社会の安全・団結 | 英国軍法案 |
データ保護法案 | |
病院患者保護法草案 |
(出所)施政方針演説
目を引くのがEU離脱関連の法案だ。下院議員の任期は5年間なので、途中解散がなければ2022年までの会期中に、2019年3月末を予定しているEU離脱を迎えることになり、EU離脱に向けた法整備を進める必要がある。
EU法の英国法への置き換えを内容とする「欧州共同体法廃止法案」(2017年3月31日記事参照)、英国独自の関税体系構築などを進める「関税法案」や貿易政策を進める「貿易法案」などの成立に努める。
国民がEU離脱を決断する大きな要因となった移民管理の在り方をめぐっては、「移民法案」を制定することで、人の移動の自由を終わらせるとしている。
また、EU離脱に伴い独自の農・漁業管理を行うための「農業法案」や「漁業法案」、欧州原子力共同体(Euratom)からの離脱により懸念される原子力安全保障の在り方(2017年6月7日記事参照)などに対処する「原子力セーフガード法案」のほか、国際法上の制裁措置を発動する権能を政府に付与することなどを含む「国際制裁法案」も審議される。
経済対策は自動車や宇宙産業を重視
国内の経済対策では、政府が重視する自動車産業、宇宙産業を対象とした法案が審議される。
「自動運転・電気自動車法案」には、強制保険(自賠責保険)の適用範囲を自動運転車にも拡大することが盛り込まれたほか、政府主導の電気自動車の充電スタンド整備、技術・運用標準の策定を行いやすくする。市場環境・ビジネス環境を整備することでこの分野で世界を牽引することを目指すものだ。
「宇宙産業法案」では、商用宇宙飛行機器へのライセンス付与や、規制枠組みの構築などを行う。衛星機器は政府が研究開発に注力する8大分野の1つに選ばれ、研究開発を商用化まで着実につなげるべく法整備がなされる。
また、メイ首相はかねて国内経済の生産性向上に向けたインフラ整備を進める意欲を示しており、これを具体化すべく「高速鉄道法案」の制定を目指す。英国では、ロンドンとイングランド北部などを結ぶ高速鉄道「HS2」の建設が行われており、この法案によりイングランド中西部から北西部を結ぶ区間の整備を着実に進める。さらに、2020年までに各家庭へのスマートメーターの設置を完了すべく、「スマートメーター法案」の審議も行われる。
メイ首相に求められる柔軟姿勢
施政方針演説にはメイ政権が成立を目指す20以上の法案が盛り込まれたものの、保守党が総選挙のマニフェストで掲げた施策の一部は抜け落ちた。その代表といえるのが、在宅介護費用負担に係る新制度だ。メイ首相は、在宅介護費用の自己負担額決定に際して参照される保有資産額の新たな算定方法を提案したが、世論の激しい反発に遭い、過半数割れする要因の1つとなった。
BBCは今回の施政方針演説について、「議会で過半数を失ったことにより、メイ首相は議会にかけるアジェンダを選ばざるを得なかった」と分析している。他方、EU離脱関連の法案は複雑で、議会で通そうとする場合、「メイ首相は政権運営の姿勢の変化を示すことが必要」と、少数与党として柔軟な対応が欠かせないと強調した。
産業界では、英国産業連盟(CBI)が「EU離脱交渉が本格的に開始された今、全ての政治家に実効的な対応を期待する」とし、党利党略を超えた対応を求めた。英国商工会議所(BCC)はEU離脱関連法案について、「制度変更に伴う産業界の調整コストを最小化しつつ、機会の最大化につながるものとすべき」と要請し、経済政策については「産業界は立法自体を求めているのでなく、インフラ整備などの実行を求めている」とくぎを刺した。
(佐藤央樹)
(英国)
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