離脱時の法的不安定性を抑える意向-欧州共同体法廃止法案の概要を公表-

(英国、EU)

ロンドン発

2017年03月31日

 政府は3月30日、EU離脱に合わせて欧州共同体法を廃止するとともに、同法を英国法に置き換えることなどを柱とする「欧州共同体法廃止法案(Great Repeal Bill)」の概要(ホワイトペーパー)を公表した。これにより、EU離脱時に発生する法制度上の不安定性を抑える意向だ。



<EU法を英国法に置き換え>

 「欧州共同体法廃止法案」は3つの柱から構成される。まず根幹を成すのが、「1972年欧州共同体法」の廃止だ。同法はEU法の英国内での効力を認めるもので、EU法が英国法に優先することや、EU司法裁判所(CJEU)の判断に英国司法が従うことなどが規定される。「欧州共同体法廃止法案」では、この「1972年欧州共同体法」をEU離脱の日に廃止するとしている。

 

 これに伴い、これまでEU法によって管理された数多くの分野の法規制に穴が開くことが懸念される。この事態を避けるために「欧州共同体法廃止法案」に盛り込まれた2つ目の柱が、EU法の英国法への置き換えだ。英国内に効力を及ぼすEU法の性格はさまざまだが、英国の法体系に直接組み込まれているEU法についてはこれがそのまま英国法となる。EU指令などを根拠に立法されている英国法については、EU離脱によりその根拠を失うこととなるが、効力が維持される。さらに、各種EU法の根源となるEU条約についても、英国法に転じたEU法の解釈などの際に引き続き援用される。EU条約にうたわれる権利(労働者の権利など)やEU基本権憲章にうたわれる人権などは英国法においても保護される。EU離脱後は、CJEUの司法権が英国には及ばなくなるが、英国法としてEU法が残存する限り当該EU法に係るCJEUの判例が英国司法制度上で効力を持つ。

 

 なお、英国法に置き換えられたEU法と対立する新法がEU離脱後に策定された場合には新法が優先され、その意味でEU法の英国法に対する優位は失われることになる。

 

<関連法制度の修正能力を付与>

 3つ目の柱が、EUを離脱することで十分に効力が発揮されなくなる法制度の修正を可能にすることだ。例えば、国内法の中にはその運用に当たりEUの意見を求めることを要求するものなどが散見され、今後修正が必要となることから、「欧州共同体法廃止法案」がその修正能力を付与する。

 

 このほか、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各行政府の権限についても言及されている。中央政府と各政府との役割分担については1973年に英国が当時の欧州経済共同体(EEC)に加盟して以降に整備が進んだもので、EU(前身を含む)の存在が前提となっている。例えば、農業分野や環境分野などに係る各政府の権限はEU法の範囲内で執行されており、農業政策ではEU共通の枠組みの下で政策が進められている。「欧州共同体法廃止法案」は、EUの枠組みを代替する英国としての枠組みを用意する必要があると指摘している。一方で、この英国共通枠組み策定は、各行政府との協議を経た上で行うものとし、各政府への配慮が示された。また、EU離脱は、EU条約やEU法などの上で特異な取り扱いがなされるジャージー島、ガーンジー島、マン島などの王室属領やジブラルタルなどの海外領土にも影響することから、これらの諸地域とも緊密に連携するとしている。

 

 法案の概要公表に当たり、議会で演説したデービッド・デービスEU離脱相は「本法案は確実性と安定性を担保するもので、円滑なEU離脱に資する」とした。また、「国民投票結果を実行に移すためにも不可欠」と、その意義を説明した。

 

(佐藤央樹)


(英国、EU)

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